杉作J太郎が考えたこと

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  • 青林工藝舎 (2011年5月23日発売)
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感想 : 10
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 劇画誌『アックス』に長期連載されているエッセイ「ふんどしのはらわた」の、過去10年分の単行本化。

 まあ、エッセイというほど高尚なものではない(失礼!)。10年余にわたる杉作J太郎の悪戦苦闘(「男の墓場プロダクション」を作って映画を自主制作したり、綾波レイに惚れ込むあまりエヴァンゲリオンのパチンコにのめり込んだり、鬱になったり)の日々が、素のまま赤裸々に綴られているだけだ。

 「綴られている」というか、文体から察するに、編集者かライターを相手に話したことをまとめてもらった感じ。ゆえに、杉作J太郎の不思議な話芸の面白さが、文章を通じて堪能できる。

 内容は、十のうち九まではどうでもいいクダラナイ話。しかし残りの約一割に、思わずメモしたくなるような珠玉の名言がちりばめられている。
 その一割の中には、根本敬の諸作に見られるような「反対側に突き抜けてしまった」人の凄みがある。いまではその日暮らしに近い貧しい暮らしをしているらしい杉作の生き方の中に、凡人にははかり知れぬ深い何かを感じてしまうのだ。「この人こそ、現代日本には稀有な真の自由人ではないか」と思わせるような……。

 私が思わず唸った、杉作J太郎のある種すがすがしい達観が炸裂する一節を、いくつか引いてみよう――。

《モノを作って「みんなに見て欲しい」ってのがそもそもどうかしてるんです。見て欲しいとか自分の考えを伝えたいとかならメジャーでやりゃイイ! こっちはどうしようもなく、止むに止まれずやってるんですから! 旧『ガロ』の思想ってのはそういうもんデショ。》

《モテたところでお金が減る一方だしネッ! モテない自分が、モテないことによって自分自身を経済的に支えてるんですッ!》

《ボクなんか、他に売るものがないですから、自分で店出して自分を売ってるわけです。殴られ屋みたいなもんでしょうけどね。》

《結局悩んでる状態ってのは停滞してるわけじゃなくて、次のアクションのために精神はものすごく生き生きとしてる状態なんでしょうね。太陽の下でボール追いかけたりしてるのが生き生きした状態と思ってたら大間違いですよ。そんなの犬でもできますから。それよりも人間、悩んでる状態のほうが実は絶対、かえって生きてるって証なんじゃないかと。》

《こないだも編集の人に会ったら、「ガンかも知れない」っていうんです。「来週入院して検査するんで、もうお会いするのも最後かも」って。それ聞いて「ふざけるな!」ってことになりまして。いや、実際にそうはいいませんけど気持ち的にね。ガンかも知れないっていう今、逆に元気を出さなくてどうする。病気の状態は、野球でいえば十対二くらいでリードされてるようなもんですよ。八点負けてるんだから、それを挽回するためには落ち込んでる暇なんかない! 今こそ、水島新司さんの野球マンガくらい荒唐無稽な展開で攻めないと勝てませんよ。》

《何かに行き詰まるのって大抵、自分で自分を規制しちゃって逃げ場をなくしてるんですよ。自分の中の縛りさえなくせば脱出は簡単でしょ。》

《選択肢がないというのは意外とストレスが溜まらないのかもしれません。会社で上司に怒られてストレスが溜まるのは「辞める」って選択肢があるからじゃないか。》

 失礼を承知で言えば「どこから見ても負け組」な感じの杉作が、己がマイナスポイントをすべてエネルギーに転化して、やりたいことをやるために怒濤の前進をしていくさまが痛快だ。根本敬の言う「でも、やるんだよ」のスピリットが、本書にも横溢しているのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ&コラム一般
感想投稿日 : 2018年11月2日
読了日 : 2011年8月12日
本棚登録日 : 2018年11月2日

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