大林太良(おおばやし・たりょう)先生の『日本神話の起源』。諸星大二郎先生がオススメと紹介していたのが手にとったきっかけ。影響を受けてるというか元ネタ、タネ本ですね。諸星作品の巻末の参考文献にも大林太良先生の本はよく出てきます。
タイトルそのまま、日本神話の起源を探る本。比較神話学といって、古事記や日本書紀、風土記などの神話伝承、伝説(現実に影響を受けてはいるけど、要するにファンタジー)を、世界中の神話と比較することで、「日本人とは何者であるか、どこから来たのか」を探っていきます。
比較神話学で有名なのは、スターウォーズの元になった『千の顔をもつ英雄』のジョーゼフキャンベルとか、もっと前だと『金枝篇』のフレイザーとかも一応そうなのかな。大林太良先生は、戦後のこの分野での一番有名な人じゃないかなと思います。
地層と似た感じで「文化層」という言葉があって、文化が伝播した時期が古いのか新しいのか、日本で言うと縄文時代か弥生時代か古墳時代なのかなど、はっきりとは断定できないけれど、神話を調べることである程度までは推定できる。
昔からよく言われていて、私もなんとなく知っていたのは南方系と北方系、古モンゴロイドと新モンゴロイド、南方の漁労民と北方の遊牧民。あとは、アメリカ先住民(インディアン)に、日本人と共通の風習があったり、環太平洋地域の神話は似ているものが多い。他に、イースター島の人々のルーツを探ると台湾あたりまで遡れるとか。このへんはこの本に載ってませんが、私の持つなんとなくの基礎知識。世界中の神話を通じて、そのあたりをより詳しく知ることができる。
当たり前の考えで行くと、日本は元々多民族国家で(台湾みたいな小さい島ですらそう。友達が喋るガチの薩摩弁とか、同じ島内なのに何言ってるかさっぱりわかりませんよ?)、「国家」という概念ができて、形成されていくにつれて、表面上は文化的に同質化した、させたというだけだと思う。かつて「日本は単一民族国家だ」と発言した政治家が何人もいたけど、歴史的経緯を考えると、同質化してる時期の方が特殊なのでは?と思う。古代から海外の文化の流入や影響を受けているので、日本の神話が独立して特別なものではない。そして逆に、世界の神話と比較することで日本神話の独自性も見えてくる。
読んでいるうちに気になるのはやはり「天皇家のルーツ」で、結局のところ断定はできないけれど、この本の中では一応アルタイ系遊牧民ということになっている。昔流行った騎馬民族征服王朝説は現在は全く主流ではないそうで、この本でも肯定はされていない(例えば、中国の都に似た都が日本にあるのを根拠に、日本は中国人が作ったとはならない……のと同じことかなと)。
宮内庁管轄の古墳を全部調べれば色んな調査が進むというのに……先日テレビで見たけど、バチカンは資料をなるべく公開するようになってきたそうです。公開しない方が憶測を呼んで陰謀論が出てくるとか笑。
世界の神話を読んでいて面白かったのは、漁労民だと魚や釣針など、農耕だとイモや粟や稲、そして酒など、その民族にとって重要なものが話に出てくる点。あと有名なのが、大蛇や龍はだいたい川の象徴。ビルマの神話にカレーが出てきたのには笑えた。
序盤は若干読みにくいと感じましたが、内容は特に難しいことは書いてない。むしろ簡単。後半に行くにつれてどんどん面白くなりました。大林先生は研究者なので……大学の先生って、教え方が下手な人がけっこう多かったことを思い出します。あと、書き方が論文だよなあと。論文を一般向けに書いてるような感じの本です。
しかし、各章の最初の1ページ目に概要をまとめてくれているので、ざっと中身を知りたい方はここだけ読むと言いたいことが全てわかるという、超便利な構成!全7章なのでたったの7ページ読めば済む!笑
さらに、巻末についてる9ページほどの補論に、基礎知識として知っておきたい内容がわかりやすくまとめられている!先にこちらから読んだ方が良いと思います。巻末のまとめに近づくにつれてわかりやすく、面白くなっていく。読みやすいんだか読みにくいんだか笑。
それと、カバーデザインが死ぬほどダサい。この徳間文庫版は1990年に出たもので、時代を感じさせるけど、それにしても手抜きとしか言いようがない泣。そのうちちくま文庫あたりからカッコいいカバーになって再出版されそうですね。
- 感想投稿日 : 2021年5月31日
- 読了日 : 2021年5月25日
- 本棚登録日 : 2021年5月11日
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