カタロニア讃歌 (ちくま学芸文庫 オ 11-2)

  • 筑摩書房 (2002年12月1日発売)
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感想 : 6
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ジョージ・オーウェルを読むのは『動物農場』『1984年』に続いてこれで3作品目ですが、その中だとこの『カタロニア讃歌』が一番好きです。

「一番好き!」だけど同時に、「一番読みにくい!」本でもあって、読み終えるまでにかなりの時間がかかりました。なのであまり人にはお薦めできません。最も読みやすいのはやはり『動物農場』なので、『動物農場』→『1984年』と読み進んで行って、もし面白いと感じたならば、それらの原点である『カタロニア讃歌』を読んだらいいんじゃないかなと思います。

この『カタロニア讃歌』は、のちに『動物農場』『1984年』を書く原動力となった、スペイン内戦での体験を綴ったルポルタージュです。
戦争のルポというと、オーウェルに影響を受けた開高健の『ベトナム戦記』もありますが、それと違う点は・・・オーウェルは戦争に取材に行ったんですが、「ファシズムはやっぱり許せん!」と感じて、実際に一兵士として武器をとって戦闘に参加したんです。

ただ、この「戦争」がひどい。

どうひどいか?というと、「戦争」と言われてみんなが頭に思い描く「戦争」ってありますよね。飛行機が飛んで、爆弾落として、戦車が砲撃して・・・とか。

それらとは全く違います。

「貧者の戦争」と言ってもいいかもしれない。敵は寒さと空腹とシラミと、戦闘できない退屈さ、という・・・。だからその分、逆にリアルに感じられます。最後の方、タバコや食べ物が本当に美味しそうだもの。映画で言うと『パピヨン』とか、ああいうのに近い。


以下、読みにくかった理由です。

1.文字がぎっちり詰まっている
普通の小説なら「」(かぎかっこ)の会話文の改行の後、下は空白になるんですが、これは小説ではないので1ページに空白がほとんどありません。改行の一文字空けぐらいで、あとは文字がびっしり。読んでも読んでも終わらねえ!

2.訳が古い
文章そのものは非常に平易、簡単です。ただ、カタカナではなく漢字が多かったり、今なら外来語として通じるものを直訳してるところが多いです。
例)「虱」→「シラミ」(まだ全然読める部類の例)
「針金切り」→「ワイヤーカッター」
「茶碗」→「ティーカップ」(オーウェルはイギリス人だから紅茶を飲む)
「犠牲の山羊」→「スケープゴート」
「市民戦争」→「civil war」=「内戦」
のように訳されていれば、もう少し読み易かったんじゃないのかなあ・・・と。この「ちくま版」の訳が一番古く、1970年が初出のようです。

3.スペイン内戦の状況が複雑
これは読みにくいと同時に、とても面白いところ。
ファシスト勢力(フランコ側)vs.共和国政府(共産主義・社会主義・アナキスト)という単純な構図だけではなくて、
共和国政府側って寄せ集めの連合勢力なので、後半は
共産主義(ソ連がバックについてる)vs.アナキスト という戦いにもなってきます。
この後半部分はまさに『1984年』の世界そのもの。だから、後半に行くにしたがってとても面白くなってきます。ラストの終わり方も最高でした。

4.当時の熱量そのままに
この4つ目の理由が、良くも悪くも重要だと思います。
オーウェルが1937年にスペイン(スペイン内戦)からイギリスに帰国して、その翌年の1938年には『カタロニア讃歌』が出版されています。まだ内戦が終わってないころですよ。だから、かなり早いスピードで書かれて出版されている・・・スペイン内戦に従軍して、そこで見たり体験したことの熱量が、ばーっと一気に出てます。文章からそれが伝わってくる。

例えるなら、大学の論文でもプレゼンでもなんでもいいんだけど
『カタロニア讃歌』は生データで、
『動物農場』や『1984年』は完成した論文、
という感じなんです。
普通、実験なりアンケートなりでデータを取って、それを抽出してまとめて考察し、グラフ等でわかりやすくして発表しますよね。

『カタロニア讃歌』は、削ぎ落とされてる部分が少ないんです。だから読みづらいし、データ量が多い。その反面、ノンフィクションなので表現が泥臭かったり、体験した熱量がそのまま出ている部分が多いように感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2014年2月7日
読了日 : 2014年2月1日
本棚登録日 : 2014年1月23日

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