なんという壮大な死刑監獄の物語だろう。
死刑について、その監獄についてわたしは何も知らなかった。分かろうとも思わなかった。まるでそこに存在していないものだった。そこには人間の生と死が最も純粋に存在する。壮絶な葛藤がある。
この物語はいつ起こるかわからないが確実に近い将来の死、という特殊な状態の人間のライフスタイルを描く。それがとても生々しくリアルで、時にそこにいるような錯覚に陥る。下巻は、他家雄と恵津子との文通内容があり、読むうちにまるで自分が監獄にいるような気持ちになっていた。彼の文体は今までの印象とは全く違い、柔らかく優しく子供のような茶目っ気を持つ。最初はなにか嘘くさく思えたが、読み進めるうちにそれもまた彼の本心で彼自身であり、母親への嫌悪が愛に変わったことも伺えた。
1ページづつ進めていくうちに、鼓動が早くなるのが分かる。なにか犯してはいけない罪を行う感じに似ている。もう戻れないのだと思い焦る感覚。何か重要なことを見落とすのではないかとずっと目が離せない。時が流れるのが早く、しかし凝縮された時間がそこにあった。
わたしたちは、何か大切なものを忘れて生きているのかもしれないと思う。知らないことが多すぎる。この小説はそんなことを気づかせてくれる。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年11月23日
- 読了日 : 2019年11月23日
- 本棚登録日 : 2019年11月18日
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