大世界史 現代を生きぬく最強の教科書 (文春新書 1045)

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  • 文藝春秋 (2015年10月20日発売)
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①なぜ、いま、大世界史か
歴史は現代と関連づけて理解することで、初めて生きた知になる。読書や歴史を学ぶことで得た代理経験は、いわば世の中の理不尽さを経験すること。だからこそ社会や他人を理解し、共に生きるための感覚を養ってくれる。例えば「今は新帝国主義の時代である」というキーワードによって世界の動きがかなりはっきり見えてくる。それだけで説明できないものも残る。
②中東こそ大転換の震源地
これまでアラブ人といえばスンニ派だった。しかし、イラクの現政権を実効支配しているのは「シーア派アラブ人」であり、新しい民族が生まれつつある。こういう混乱した状況になると、最終的には思想が人を動かす。だから過去にどういう思想の鋳型があったのかを調べることが重要だ。「イスラム国」の狙いは、アッラーが唯一であることに対応して、地上においてもシャリーア(イスラム法)のみが適応される単一のカリフ帝国を建設すること。暴力やテロに訴えることを辞さない。既存の国際秩序、人権など普遍的価値を一切認めていない。
③オスマン帝国の逆襲
イランは「ペルシャ帝国」、トルコのエルドアン大統領は「オスマン帝国」よ再びという動きを見せている。かつてのオスマン帝国の境界地帯で現在さまざまな紛争が生じているが、オスマン帝国の統治下では平和的に共存していた。エルドアンは専制君主ではあるが、帝国的な寛容は望むべくもない。
④習近平の中国は明王朝
国には、膨張志向の国と収縮志向の国がある。アラブも日本もアメリカ、ロシアも収縮の国。今の中国は膨張する国。それを象徴するものは「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」と「南シナ海への海洋進出」である。明は漢民族中心の帝国主義の国で、習近平は「かつて鄭和の時代に南シナ海を開拓し、平和の海にした。それ以来、中国の領地なのだ」と言う。かつて、「海はみんなのもの」としたほうが海洋帝国であるだいえいていこくに有利であった。だから、領海の拡大は、本来、反帝国的な動きである。中国は、とにかく資源が欲しくて場当たり的に動いている。韓国の歴史教科書は「テロリスト史観」で日本にとって脅威。
⑤ドイツ帝国の復活が問題だ
ギリシャ問題に関しては、そもそもギリシャをヨーロッパと考えるのが間違い。現在のギリシャは、ロシア帝国と大英帝国のグレートゲームになかで恣意的につくられた仇花である。オスマン帝国を解体するために西側の出店としてつくった国家だから、いわばそこに存在すること自体がギリシャ人の仕事になっている。ギリシャ人の働き方は、ロシアと一緒で生産性は低い。それに対して、ドイツ人は勤勉で生産性が高く、これがドイツの強さの根源である。ドイツ人のライフスタイルは質素で内需の拡大は期待できないので、産業は輸出に頼るしかない。新たなパートナーは誰か。パートナーたちは、経済と国家の安全保障を結び付けて考える。さあ、EUの行き詰まりをどうしていけばよいのか。
⑥「アメリカvs.ロシア」の地政学
ロシアは、自国国境の周辺に自由に動ける緩衝地帯や衛星国がないと安心できない。だから、ウクライナ問題に対しては強硬姿勢である。ウクライナは、フィンランド化していくだろう。
オバマの弱いアメリカは、世界から軽んじられている。ネオコン的なヒラリーが大統領になれば、オバマ民主党路線との違いを見せた外交になって、戦争が起きやすくなるだろう。大統領選で鍵を握るのは、非白人人口の中の特にラティーノ、南部諸州、リバタリアン(自由至上主義者)たちである。
⑦「右」も「左」も沖縄を知らない
沖縄では、日本からの分離の動きの下地ができている。安保賛成というと辺野古への新基地建設を強要されるのはおかしい。自分の頭で日米同盟はどうすれば維持できるか考えなければならない。
⑧「イスラム国」が核を持つ日
冷戦下で相互抑止体制を築き、なんとか核戦争は先送りされた。それがここにきて、相当の数の国が核を保有しながら併存する時代にとつにゅうしつつある。しかし、本当に併存が可能か誰も分からない。
⑨ウェストファリア条約から始まる
宗教戦争を終結させる、宗教のために戦うのをやめるというのは、神よりも重要な価値を認めるということであり、その意味で、ウェストファリア条約とコペルニクス革命は、同じパラダイムにある。これをきっかけとして、「人権」という概念が出てきた。それに対して、「イスラム国」などのイスラム過激派は、今日においても「神の主権」を主張している。間違いを起こす人間が法律をつくるなどとんでもない。民主主義はだめだ、神なら間違えない、ということでシャリーア(イスラム法)を絶対視する。イスラムは、キリスト教と違って、現在意識にない楽観的人間観であり、神が命じれば、聖戦の名の下にいかなる暴力も許されてしまう。
⑩ビリギャルの世界史的意義
イスラム、アフリカの人口増加、これが歴史を動かしていくのかもしれない。豊かな経済基盤によって移民を呼び寄せられる国が、「帝国」になりうる。
そして、教育も重要である。しかし、日本のエリート教育は、ビリギャルが話題になるぐらいの受験刑務所で酷いものである。今こそ真の教養教育が行わなければならない。今日において教養となにか。「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」の7つのリベラルアーツを学ぶことによって、偏見や束縛から逃れて、自由な発想や思考を展開できるのだ。実証性や客観性を軽視して自分が欲するように世界を理解する反知性主義は、極めて危険だ。
⑪最強の世界史勉強法
自分を知るために歴史を学ぶ!
1~11章まで、自分自身がひっかかった言葉を中心にまとめてみた。このまとめ方に、私自身の考えが出ている。私のような歳になっても教養を付けようとするのは、まだまだ遅くないように思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 世界史
感想投稿日 : 2019年8月20日
読了日 : 2019年8月20日
本棚登録日 : 2019年8月20日

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