文士の逸品

著者 :
  • 文春ネスコ (2001年8月1日発売)
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本棚登録 : 17
感想 : 3
5

19世紀後半の夏目漱石から20世紀最後の永田耕衣・東君平あたりまでの100人近い文士の逸品の写真を左ページに、略歴・エピソード・逸品の話の文章を右ページに載せたもの。白黒の写真が素晴らしい。底光りをするような黒と雄弁な灰色と白。逸品の存在感をじわりと味合わせてくれる。簡にしてつぼを抑えた文士の内面に迫る文章もいい。
「中勘助の匙」小説そのままのものが残されている。
「萩原朔太郎のギター」マンドリンだけでなく、ギターの腕もよかったそうだ。
「宮澤賢治のチェロ」資産家の家に生まれたこそ買えるもの。クラシックのレコードも片っ端から購入したそうだ。
「中原中也の空気銃弾ケース」洞窟や林の中で撃っていたそうだ。あの容貌からは想像もつかないが。
「太宰治のマント」いかにも太宰治の物という感じ。
「立原道造の製図用具」建築家としても嘱望されていたそうだ。婚約者との新居も自分で設計していたのに。
「泉鏡花の兎の置物」金沢の自分の干支から7番目に当たる動物を集めると出世するという言い伝えから集めていたとか。なかなか可愛い。異常なほど清潔にこだわった人。
「芥川龍之介のマリア観音像」いかにもこの人らしい。
「立原正秋の包丁」吉兆の板場にまで乗り込んで注文をつけたとか。堺包司の包丁はの切れ味は凄まじそうだ。
「田山花袋の版木」原稿用紙を自分で刷ったとは。
「尾崎放哉のインク壜」終焉の地、小豆島南郷庵には旅行で数年前立ち寄った。風光明媚温暖のいいところだ。
「井伏鱒二の釣竿」この人にはもちろんこれ。
「寺山修司の人形」表紙のもの。異常な迫力がある。
「斎藤茂吉のバケツ」これを持ち歩いてこの中に放尿していた。茂吉らしい豪快さ!?
もっといくらでも書けるがこのぐらいで。いやあ、本当に愉しい読書と眼福だった。この文士たちの作品も読みたくなった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイと写真集
感想投稿日 : 2020年11月11日
読了日 : 2020年11月11日
本棚登録日 : 2020年11月11日

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コメント 2件

nejidonさんのコメント
2020/11/13

goya626さん。
とても嬉しいです!ありがとうございます!
実はワタクシ、中勘助の「銀の匙」を載せるのを忘れて、返却後それに気が付いたのです。
でもこちらに載せて下さってるので安心しました。
寺田寅彦のオルガンは、「読書と人生」に登場していました。
そういうところで繋がるのが嬉しいですよね。
レビューは少ないですが、とても良い本だと思います。

goya626さんのコメント
2020/11/13

いやあ、nejidonさんにはいい本を紹介してもらいましたよ。この本はナイスです。尾崎放哉の小豆島は行きましたが、とてもいいところです。オリーブの木がたくさんありましたが、醤油の里としても有名です。辺りに醤油の香りが満ちていました。生きているうちにもう一度行きたいです。さて、矢島裕紀彦さんも注目です。たくさん本を出していそうですね。

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