紐結びの魔道師 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2016年11月19日発売)
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本棚登録 : 466
感想 : 35
5

好きだなあ。おそらくシリーズ中で一番好き。

何百年も生き続けなくてはならない魔道師たちの
苦悩と悲哀を感じて切なくもあるけれど
エンスの生き方のひょうひょうとしたところが
心地いい。

帝国の権力者や私利私欲に目のくらんだ魔道師たちと
魔法を正しく行おうとする魔道師たちの凄惨な戦いも
いわゆる王道ファンタジーとして心躍ったが 
この物語の時代には帝国の力は衰え なんとなく
人々がつましくも平和に暮らしている ゆるゆるした
空気感があって それに包まれる感覚が好き。

何よりもほとんど血は流れず 人が死なないのがいい。

一方で

普通の人間たちの短くも穏やかな一生を
エンスはどこかで渇望している。
日々出会う小さな美しいものへの感動を
積み重ねて暮らしたいと願っている。

 
盟友リコの死の危機に直面したことで
エンスの中に深まってゆく エンスだけの苦悩が
手に取るように伝わってくる。

彼の孤独を癒せる者は もうこの時代にはいない。

そう思っていたところに 物語は魔道師たちの
長い歴史を巻き戻すかのように 太古の昔へと
回帰してゆく。懐かしい色合いを帯びてゆく。

エズキウム。ギデスディンの魔道師ケルシュ。

第1作「夜の写本師」へと 歴史はめぐり
エンスの心に生きることの喜びがよみがえる。

素敵なラストでした。
懐かしさと人間らしさと魔道師の誇り。
このシリーズでわたしの心を最もとらえた
場面はやはり ケルシュとエンスの邂逅でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年11月26日
読了日 : 2016年11月25日
本棚登録日 : 2016年11月7日

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