3人の語り手による一人称語りが交互に挿入される手法は、近年の日本の小説でも伊坂幸太郎らが盛んに取り入れている手法だ。一見異なる世代、異なる時制の話が一点に収斂していくのもまた然り。
おそらくは発達障害的背景を持つオスカーは、9・11という唐突な事象により父を失うという事実を論理的に受け入れられない。3・11の後に自閉症の子の多くが情緒不安定になったのと重なる。PTSDの背景にある脆弱性は、感覚の過敏さと切り離せない。オスカーは「発明」に疲れている。
エンパイアステートビルの展望台からニューヨークの街を見渡して双眼鏡で亡き父を捜すうちに、遠くにあるものがありえないほど近く感じ、情緒的に混乱を来すシーンは象徴的。
戦争にせよテロにせよ、「死体」のない死をどうすれば論理的に受け入れられるのか?というのは難しい問題である。ここに描かれているのは、手紙というコミュニケーションツールと人間同士のシンプルな対話のみである。相互的なコミュニケーションの反復を通してのみ、未来の生が開かれているのだ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2013年2月28日
- 読了日 : 2013年2月27日
- 本棚登録日 : 2013年2月5日
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