アドリアンは名門ヴァインフェルト家の末裔として生まれ、絵画競売会社で鑑定家として働いている。
絵が生家にたくさんあったからゆえにスイス絵画の専門家となった。
働くことに経済的な意味はない。だが規則的な生活には職業は必要だ。
身につけるものは全て父親の代からの仕立て屋による高級オーダーメイド。
世界に一人きりになってもディナーの前にはシャワーを浴び、ディナージャケットに着替えるだろう。サマセット・モームの世界をこよなく愛している。
育ちのよい温和なアドリアンは非常に地味な(それでも庶民の虚栄心を満たすには充分な)生活をしているが、ある女の登場で彼の生活にさざ波が立つ。
その女ロレーナは30代後半のモデル上がりのいわば「すれっからし」。
昔の恋人に似ているとはいえ、アドリアンがなぜ、このロレーヌにここまで惹かれるのかはちょっと首を傾げてしまうところもあるのだが、男女の関係というものは意外とそんなものなのかもれない。
ロレーナはそばかすが散る赤毛で細身の女で、いうなればアイルランド的な容姿なのだろうが、その描写がなんとも絵画的だ。
小説にはヴァロットンの『暖炉の前の女』がストーリーの中心として登場するが、その容姿はなぜだかロレーナを想像させる。絵の女はかなりたっぷりとした下半身の女なのだが。
作品紹介にはサイコスリラーとあるが、ミステリーというよりは個人的にはちょっと風変わりで洒落た恋愛小説という感じ。
サイコスリラーというフレーズは完全に忘れたほうがよいと思う。
物語前半はとくに、アドリアンのような人々のライフタイルがどのようなものなのかを描いた、そこだけに集中している。
超リッチなアドリアンのような特権階級の人々の生活に興味がある人にはたまらない小説だと思う。
- 感想投稿日 : 2011年2月10日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年2月10日
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