港町の近代: 門司・小樽・横浜・函館を読む

  • 学芸出版社 (2008年5月1日発売)
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眼から鱗。

函館に住む私たちが普段なにげなく見過ごしてしまっている、町を形造る数々の部品。

岸壁、石垣、坂の形状、古い民家、そして古地図や絵図。それらを丹念に渉猟し、さらに現地調査(フィールドサーベイ)を積み重ねていくと、港町に固有でかつかなり普遍的な町の成り立ちから発展のあとを劇的に浮かび上がらせることができるのだ。

函館の歴史を、港町として、外国に開かれた貿易港としての独特・急速な発展を遂げた町として、構造的にあとづけた著作としては従来にない、傑出したできばえと思う。

この町の古地図や絵図、そして地割り図(代表的なものは富原氏の労作「箱館から函館へ」)などを何度「眺めて」もその意味するところを読み解くことは困難であった。ところがこの本を読むと、それがストンと落ち着くところに落ち着いてくる。

たとえば、明治期の『現在の)大町付近の港近辺の地割りの変遷が意味するところが、港と荷揚げ、商品流通のしくみの変化にぴったり符合していること。

幸坂に等高線のラインで直交する道をはさむように成り立つ町並は、最高所から順に、神社(山上大神宮)、遊里(明治初期に成立した函館最初の遊郭)、旅館街(旅籠町)、職人町(鍛冶町)一般民家、商店街(大黒町)、そして臨港エリアは倉庫、商家。

そうした重層的な町の成り立ちのありようが実は函館にユニークなのではなく、門司や小樽にも共通するものがあること。

ともあれ、函館の港町として近代の発展のありようがすっきりと説明されていて、町歩きを深く楽しむには必携。ちなみに表紙が函館の幕末の港の賑わいを表した絵図で飾られているのも嬉しい。(ちなみにこの絵図は2009年の函館開港150周年の告知ポスターにも転用されている)

そして、著者たちが函館のフィールドワークを実施した(つい2-3年前)際に、わざわざフェリーで函館に着岸し、「港町はまず海側から見られることを意識して形作られた」というテーマを実践していることにもおおいに共感を覚えた。

連絡船が廃止されてから20年。函館に住むわれわれににとっても、既に函館を海から「望見する」ことが久しくなっていることにあらためて気付かされる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史-日本
感想投稿日 : 2011年5月11日
読了日 : 2011年5月11日
本棚登録日 : 2011年5月11日

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