良い戦略、悪い戦略

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2012年6月1日発売)
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米国では相当有名な戦略論の大家らしいが、今までに二冊しか本を出してないらしく、しかも前作は三十年前なのでまったく名前を知らなかった。
戦略に関して、極めて本質的なことを述べている良書である。

悪い戦略の特徴として、
1,空疎である
2,重大な問題に取り組まない
3,目標を戦略ととりちがえている
4,まちがった戦略目標を掲げる
としており、本文を読んでいくとハッと思い当たる部分もあるのが困る。

反面、良い戦略についても示唆が豊富に示される。
カーネル(核)となるのが、
1,診断
2,基本方針
3,行動
であるという。
ただし基本方針そのものは戦略とはいえず、的確な診断があって初めて基本方針が生きてくる。

米国の冷戦中の国家戦略立案の例は興味深い。
ソ連のイデオロギーや権力の徹底的な分析をし、長期戦を確保すべきで交渉による和解の余地はないという診断を下した上で、封じ込め戦略を立案&実行したそうだ。

ガースナーがIBMを建てなおした事例も、まさに事前の診断がものを言っている。
社内やウォール街の判断では図体が大きくなりすぎたIBMは分社化すべきと云う意見だったが、状況を分析したガースナーは総合メーカーとしての総合的なスキルを活かせていないと診断し、その結果分社化は中断されてオーダーメイドのソリューション提供という新しい基本方針の本で復活を成し遂げている。

戦略の要となる強みの源泉を解説する部も面白い。
鎖構造の章で述べられている話などは、楠木教授の主張している良い戦略にはストーリーがあるという内容と同じだと思うし、戦略実行に使える強力な手段が近い目標を立てることであるという主張は納得感が大きい。
そして最近の企業の中では出色な戦略行使をしてきたNVIDIAの例は、本書中多くの例の中でも焦眉のものであろう。
いかにこの会社が戦略を駆使して成功を手繰り寄せてきたか、がそこまでの解説と相まってよく理解できる。

本書の至る所にある戦略の説明の例示には、企業戦略に限らず古今東西の戦争や外交から的確な事例を数々と取り上げている。
イラクを攻めた「砂漠の嵐」でシュワルツコフ大将が取った伝統的な包囲戦略、聖書にある巨人ゴリアテをダビデが破るときの一点集中戦略、カルタゴの名称ハンニバルがローマを完膚なきまでに破ったカンネの会戦など、他でも良く聞いてきた戦略なのでスッと事例が頭に入ってきて分かり易い。

その他、色々と示唆に富む文章があるのだが、P320~321で筆者が技術畑出身の経営陣の述べた戦略と科学の捉え方に関する説明には唸ってしまった。

他の戦略本のようにある考え方に基づいた新しい戦略を述べるという筋ではなく、戦略一般に対しての考え方を非常に適切に整理した本である。
また各所に自身の普段の仕事の中での考え方を改めさせる示唆があり、振り返りにもとても役立てることができた。
お薦めの戦略本である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2012年11月18日
読了日 : 2012年11月17日
本棚登録日 : 2012年11月17日

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