天才ギタリストとジャーナリストとの大人の恋愛を描く一方で、芸術や音楽や映画、政治情勢や思想といった見聞が幅広く扱われていて、まさに大人向けの極上の恋愛をしっとりと、そして丁寧かつ緻密に表現した小説だった。
たった3度しか会った事のない2人…
運命という言葉で片付けるには手に余るほどの、男女の情愛が美しくて切なくて、その分危うさすら感じた。
最後の第9章 マチネの終わりに
2人が初めて出会い、交わしたあの夜の笑顔から、5年半の歳月が流れていた。
ここに辿り着くまでが本当に苦しかった。
其々の登場人物との出会いに、新しい家族や仕事、
そこに内在した苦悩や葛藤…
その分、漸く辿り着けた出会いに涙がじんわりと溢れた。
以下、作中で幾度となく登場する蒔野の台詞
「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。」
私も過去の経験が時を経て趣を変えていることに気付くことがある。本作でこの台詞がストンと胸に響いた。そしてこの2人に起こったほんの些細なかけ違いも、きっと気付かないだけで私たち誰にでも起こっている事なのだと感じた。
それも含めて人生だなぁなんて少し達観しながら、やはりそれでも歳を重ねる毎に一年という月日の速さに驚かされる。
読後に一人とっぷりと余韻に浸るのが心地よい作品で、極上の食事を堪能した様な読後感だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年9月4日
- 読了日 : 2023年9月4日
- 本棚登録日 : 2023年8月22日
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