二宮敦人さんは初読みの作家さんだった。
装丁デザインの美しさに魅かれて手に取り、イラストのイメージから、勝手に軽いタッチの小説だと思ったら、しっかりと重たい内容の医療小説だった。
【あらすじ】
物語の舞台は武蔵野七十七病院
副院長の「福原雅和」は患者の命を救い、奇跡が起きることに執念を燃やす天才的な外科医
一方、患者には死を選ぶ権利があるという信念で、残された時間を有意義に過ごし、尊厳死を勧める「桐子修司」
両者の間を取り持ちつつ、自身の在り方を問い続ける「音山晴夫」
大学からの同期である彼等の「医師」として或いは「人間」としての信念が交錯しながら、3名の患者の闘病を描く形で物語は進む。
【レビュー】
何度も何度も涙が溢れて、一話読み進める毎に脱力感が凄まじく、放心状態になりながらも夢中で読み進めた。
誰もが避けて通ることは出来ない「死」
いつ訪れるかも分からず、明日生きている保証もない毎日なのに、多くの人が直面するまで無防備で、直面する時に初めて自身の無力さを知るのだろう。
医療現場の緊迫した現実や、病院内の異質で異空間な様子、生と死が隣り合わせの日常、、、
平穏な生活のすぐ側で、実際に起きている医療現場の様子が、圧倒的なリアリティで迫ってくる。
病と真っ向から闘う姿勢の福原は、逞しくて強くて、一寸の迷いも感じない。私も患者だったら希望の光を見出したくなるだろう。
ただ、治る見込みが無いならば、尊厳死という選択肢こそが救いだとも思う。桐子は作中で死神と呼ばれているが、死を受け入れるという考え方には、私も賛同したい。
そして対極的な両者の間で揺れる音山。
患者と一緒に悩み苦しんでくれる医師というのは、頼りないが温かで人間味を感じる。ただ医師の忙殺される日々では、精神が保たないのではと心配になる。
読みながら、何度も何度も、自分の死生観を見つめることができた。亡くなった友人や家族のことを偲び、これからの大切な人との過ごし方や、これからの人生の時間の使い方にも思いを馳せた。
本当に色々なことを考えさせられた。
日常生活では、なかなか考えることが少ない、そういう機会が持てたことこそが、読後の何よりの恩恵だった。
本作に出会えたことに心から感謝したい。
感涙必至なので読む場所に注意だが、
とてもオススメ!!
二宮敦人さんの他の作品も読んでみたいと思う。
- 感想投稿日 : 2024年4月25日
- 読了日 : 2024年4月25日
- 本棚登録日 : 2024年4月6日
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