きかんしゃやえもん (岩波の子どもの本 カンガルー印)

著者 :
  • 岩波書店 (1959年12月5日発売)
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本棚登録 : 1281
感想 : 118
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名作絵本。
1959年12月5日に第1刷、手許にあるのは第67刷。児童書や絵本にはロングセラーが多くありますが、中でも化け物クラスです。

妊娠が判明して舞い上がっていた時期に、よく考えずに「自分が知っている絵本だから」と買ってきた一冊なのですが、新生児期、乳児期は当然ながら全く興味を示さず、読み聞かせを聞いてくれるようになったのはほぼ5年後でした。恥ずかしながら今から考えれば当たり前です。
最近になって、本棚に並んでいるのを見つけて、これなあに、読んで?と言って持ってきてくれるようになりました。ただ、以前はトーマスやチャギントンが好きだったはずなのに、ここ最近は恐竜に夢中になっていて、思ったほど食いついてくれません。ちょっと残念です。

作者は阿川弘之。「山本五十六」「米内光政」「井上成美」はいずれ読んでみたいと思いつつなかなか手を出せません。
鉄道好きだったそうですし、宮脇俊三から波及して南蛮阿房列車は読んだことがありますが、こちらは自分のストライクゾーンからは外れていました。
でも、児童書としては、「しゃっ しゃっ しゃくだ しゃくだ しゃくだ」「ちゃんちゃん かたかた けっとん」「とっとも つかれて けっとん」「ほんとに いやだよ けっとん」などコミカルでリズミカルな擬音が効果的で、読み聞かせるには楽しい本です。

何しろ60年前に初版が出た本ですから、やえもんのことを「びんぼうぎしゃ びんぼうぎしゃ」とからかったでんききかんしゃも、「ら ら らん らん ぱあん」といってしまったとっきゅうも、おけしょうをしてもらっていたでんききかんしゃも、れえるばすのいちろうとはるこも、とうにこの世にはありません。栄枯盛衰は世の習いとは言え、諸行無常を感じます。

ところで。
読み聞かせながら、あれ、自分この本好きだったかなあ…と疑問に思いました。知ってる本だからと買ってきたけど、そう言えば、からかわれて腹を立てただけなのに、反省しているのに、やえもんのこと、もっと走らせてやればいいのに、と、割り切れなさを感じるのです。
引退して博物館で隠居するのが幸せなのかなあ、同じ時期に買ったもう一冊、ちいさいおうちはまた人に住んで貰えてるのになあと思っていたのですが、こちらも最近子どもと一緒に見るようになった「カーズ」や「トイ・ストーリー」の続編を見て、もやもやをもやもやのまま言葉にしておこうかなあと思えるようになりました。
ライトニング・マックイーンは新世代のレースカーに性能ではもはや及ばないことは自覚しながらも、後輩を育成しつつ自らもレースを続ける道を選びます。ウッディはヘッドハンティングを断り、勤務先を変え、とうとうフリーランスになってまでおもちゃとして子どもと遊ぶ道を選びます。
現役にこだわりしがみついたマックイーンもウッディも、いずれボロボロになって現場を離れざるを得ないでしょう。でも、物語としては彼らの選択には共感を覚えます。一方で、古くて使い勝手が悪くなった実用品を形式的に残すことの胡散臭さは、例えば「腰巻ビル」を巡る感想(https://dailyportalz.jp/kiji/koshimaki_building)によく現れています。
不便で使いにくい、でも打ち捨てるには忍びない、かといって意匠だけ保存するのは胡散臭い、じゃお前どうすればいいと思ってるんだと言われると答えを持ち合わせているわけではなく、ただもやもやしているだけなのですが、いずれにせよ、古くて不便なものは打ち捨てられ、とにかく新しくてきれいで便利なモノを皆が追い求めていた1950年代の価値観に異を唱えていたたはずのストーリーは、当時新たに作られ、使われてきたものがさらに更新されつつある今、すんなり胸に落ちるものではなくなってしまったなあ、と思ってちょっとしんみりしてしまいました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 阿川弘之
感想投稿日 : 2019年12月31日
読了日 : 2019年12月31日
本棚登録日 : 2014年2月17日

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