コウノドリ(2) (モーニング KC)

著者 :
  • 講談社 (2013年9月20日発売)
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本棚登録 : 924
感想 : 51
5

産科を舞台に妊娠出産にまつわるドラマを圧倒的なリアリティを持って描く人気シリーズの第2巻。
「未成年妊娠」「無脳症」「被膜児」「喫煙妊婦<前編>」の4編が掲載されています。

中絶や妊娠中の喫煙といった身近なテーマが扱われている一方で、「無脳症」のようにお母さん(妊婦さん)とお父さん(パートナー)に重大な決断を求めるエピソードも。ハッピーエンドばかりではない現場発のプロットが多いからなのでしょうか。
そして、当事者に重大な決断を委ねなければならない、出産においてはあくまでも脇役である産科医のサクラ先生の言う「助けられないとわかっている赤ちゃんのために 医者はその家族と一緒に悩むことはできない 僕ら(産科医)は無力だ」という言葉にものすごいリアリティを感じます。
無脳症をお母さんに告げる直前にサクラ先生が自ら頬を張って気合を入れてから臨まなければならなかったように、産科医のお医者様は日々こんな状況に直面し、こんなことを考えながら仕事をしているのでしょうか。月並みな言葉ですが、頭が下がります。
そして、妊娠出産って、いつ自分たちが同じように決断を求められることになるかわからなかったってことで、そういう場面に遭遇しなかったのはやっぱり奇跡だったな、って思うのです。

この巻から助産師の小松さんともう一人の主人公と言ってもよい3人目の産科医四宮先生が登場して、徐々に群像劇の色を濃くしていきます(この巻では端役で、利益と訴訟回避のことしか考えていないように描かれている院長にすら後でドラマがあります)。そして、時には熱く時には冷静に対立するサクラ先生と四宮先生のやり取りは、今後の名物です。

それにしても1巻にほぼ1回ずつ、読んでいて涙がこらえきれないシーンがあります。ネカフェなどでは読みにくい本です。

以下、各エピソードに一言ずつ。

「未成年妊娠」
出生数が100万人を切ってなお減り続けるという報道を見ました。一方で、この巻では人工妊娠中絶が20万人とされています。最新のデータを調べると平成28年度で16万件だそうです。
自殺者数が2万人、交通事故で亡くなった方が3千人。がんで亡くなった方が37万人。
単純に数を比べてることに意味はありませんが、でも16万というのはそれくらいの数字です。ちょっと粛然とします。

中高生の妊娠はドラマ等でもよく取り上げられる(確か「3年B組金八先生」にもありました)テーマですが、このエピソードは産婦人科医や妊娠させた男性とその父の視点に踏み込んでいて貴重です。元気に育っている赤ちゃんの中絶をしなければならないサクラ先生の心中が「赤ちゃんに胸を張れるくらい幸せになってくださいね」との一言に見事に言い表されていると思います。
実際の現場で、一組一組の中絶希望者にここまで丁寧に対応するのかどうかはわかりませんが、そうしたい、という気持ちは取材元になった人たちはきっと持っているのでしょう。
あと、お湯を入れたての「ポヤングソース焼きそば」をチラ見するサクラ先生の視線が悲しいw。

「無脳症」
症例としては「ブラックジャック」で読んだ覚えがあります。ただ、こちらは症例そのものではなく、医師にも救いようがない赤ちゃんの中絶を決断する母とそして父がテーマ。
無力さを自覚するサクラ先生、どうにかして赤ちゃんを救う方法がないかと必死で模索するお母さんに挟まれて、この漫画では普段影が薄いことが多いお父さんの悩みが描かれます。生きていくことができない赤ちゃんを中絶しなかったがためにお母さんにもしものことがあったら「自分の子供をずっと憎んで生きていかなきゃいけないんだぞ」。だから中絶して欲しい。
そんな気持ちをお母さんになかなか素直に伝えることができなくて、サクラ先生に背中を押されてそれを伝えようとする直前、玄関の暗がりで、まだ赤ちゃんが男の子かどうかわからないのにテンションが上がって買ってきてしまったグローブを胸に抱いて涙するお父さんの姿。自分のお腹を痛めることができないだけに、かえってその涙は胸に迫ります。
1巻で同じことを書きましたが、やっぱり涙腺崩壊。

そして、再び語られています。
「多くの妊娠出産を見れば見るほど思う 出産は奇跡なんだ」。

「被膜児」
助産師の小松さんと四宮先生登場。
サクラ先生の駆け出し時代に珍しい症例の「被膜児」でお世話になったベテラン助産師の小松さんが聖ペルソナ産院に帰ってきました。
そして、もう一人の産科医「四宮先生って笑うんだ」と言われる四宮先生も登場します。

「喫煙妊婦<前編>」
ちょっと調べてみたら、平成22年の女性の喫煙率は、20台12.8%、30台14.2%。一方、同じ年の妊婦さんの喫煙率は5%。こういうデータの読み方をしていいのかどうかわかりませんが、妊娠を機に禁煙した人は相当程度いると言っていいのでは。
そこには人間ドラマはないのかもしれませんし、この漫画でもTVドラマでも語られませんが、でも、頑張って禁煙したお母さんに拍手。

そして、頑張っても禁煙できない妊婦さんを通じて、妊娠中の喫煙が胎児に与える影響が語られます。やっぱり夫婦揃って禁煙しないとダメだよね。

そして、そんな妊婦さんに冷然と「タバコを止めない妊婦は 母親になる資格がない」と言い放つ四宮先生。サクラ先生も、彼が笑ったところを5年間見たことがないそうな。
でも、そんな四宮先生も、病室のベッドで優しい表情で絵本を読み聞かせする一面があるのでした…。で次巻に続きます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 鈴ノ木ユウ
感想投稿日 : 2019年6月26日
読了日 : 2019年6月26日
本棚登録日 : 2019年6月6日

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