人間回復の経済学 (岩波新書 新赤版 782)

著者 :
  • 岩波書店 (2002年5月20日発売)
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10年以上前から言われていた少子高齢化社会となる将来の日本をどのような形にしていくのかを新古典派の経済学理論やケインズ経済学を否定し、知識社会の到来にあわせてどのように社会と経済に対する人々の姿勢をとるべきかを、スウェーデンでの取り組みを混ぜ込みながら紹介しています。現代経済の根幹を成しているともいえる新古典派経済学の理論を、経済学者がまっこうから否定しているという点で希有な書物と言えそうです。

著者の論点にはつよく同調できる所が多く、読みながら「日本人の多くがそうおもっているはずなのにこんなにも買われないのは何故なのかな?」と不思議に思えてしまうところも多いのです。ホモ・サピエンス(知恵のある人)と称される私たち人間が、自分たちの手で生み出した経済学からなぜ「見えざる手」という言葉で価値・価格・需給バランスが人の手を離れたところで決められるという発想にいきつくのか?人間の生み出したものだし、市場に参画しているのは人間自身であるということは分かってもそれをコントロールできないこのもどかしさは何故なのか?

経済学の原論に触れたことのある人ならば、著者である神野直彦・東大教授の指摘は「確かそうかも…」って思えるポイントが多いのですが、どうすればこうした現代の日本社会を根幹から変えるか?というところへの著者なりの行動計画は示されていません。それだけの大転換が必要だということは十分認識できますし、そこにたどり作るためのグラウンドプランを示している政党や政治家も見当たらないのも分かります。

著者は小泉改革に反対する立場にたっているようにも見えます。本書が発行されたのが2002年ですから、劇場型政治によっては国民が本質を見抜く努力を、かれの単純で伝わりやすいメッセージ性が削いでしまった時に、その将来どうなるかを見通していたような内容の本は2002年に出されていたというポイントは押さえておくべきだと思います。発刊から6年を経て、金融危機という新たな経済に関わる問題が浮上し、世界はその対応に追われている中での、人間本意の経済学の確立というところはなかなか見えてきません。

特に、家父長制の二次的影響ともいえる名残からか、長時間労働が英雄視される傾向がまだ企業に残る一方で、核家族化した家庭を担う中年世代は育児と介護も同時にこなすような時代になりつつあるなかで、日本人の「労働」観そのものを転換する必要もあるのではないか?とも思えます。その労働観の転換が何によってなし得るのかを知りたいとこの本を読み終わった後の私はそう思えるようになりました。問題を深く知るためにステップを一つあがれたと思える、そんな読了感の持てる本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 岩波新書
感想投稿日 : 2008年11月16日
読了日 : 2008年11月16日
本棚登録日 : 2008年11月16日

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