国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ文庫 NF 464)

  • 早川書房 (2016年5月24日発売)
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なぜ世界には繁栄する国とそうでない国があるのか。繁栄が続かないのはなぜか。立場の逆転は何が原因か。
本書では、それらは制度によるものだとして考察している。
ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』が面白かった人には一読の価値がある内容かと思う。



ラテンアメリカは現在も貧しい国が多く、それらはスペインの収奪的制度の影響によるとしている。その中でも先住民がほとんどおらず、鉱物資源の乏しいアルゼンチン、チリは他の大半の国よりうまくやってきた。一方でアステカ、マヤ、インカの各文明に領有されていた土地には金を持つ王がおり、スペイン人の支配が及んだ。
また、アフリカの多くの地域では奴隷売買から相当な利益が得られ、その為アフリカの王やエリート層により奴隷の輸出が一層盛んになった。

日本もかつては金銀が豊富に取れた。石見銀山は最盛期には世界の三分の一の銀を産出していたともされる。ほぼ同時期にスペインが支配したボリビアのポトシ銀山と共に二大銀山と呼ばれていた。
またアフリカ諸国と同様、戦国時代にスペインとポルトガルの宣教師が布教にくると共に、それらの国の商船が日本人を奴隷として海外に売り飛ばしていたことがある。
つまり当時の日本はアフリカやラテンアメリカの国々と非常に近い状況にあったといえる。これらの国々と日本の違いはどこだろうか。

本書で取り上げられているコンゴを例にみると、
コンゴの王が自分の利益のため積極的に奴隷貿易を行ったのに対し、日本では豊臣秀吉がキリスト教の布教と日本人の奴隷の売買を厳しく取り締まっている。
またコンゴも日本も銃を買い入れたが、この使い道が両国では異なる。コンゴでは絶対的な権力をもつ王によって、奴隷を捕らえて輸出し、また反乱を抑えるために使われた。一方日本では戦国の国どうしの戦のために取り入れられた。一時は世界最大の銃保有国となり改良も急速に行われ、これがスペインやポルトガルの脅威ともなった。
こうしてみると、日本植民地化の危機は幕末より先に戦国にあったともいえる。また、戦国時代という一見不安定で不利にみえる時代も、海外からの侵略を討ち払うのにうまくハマった側面があるかも知れない。
スペインはラテンアメリカの支配において、中央集権的な強い政治権力を持たない先住民の抵抗に遭い、より支配しやすい地を求めて撤退している。
仮に日本が中央集権のもとキリスト教を受容し、一部の権力者だけが利益を得られるような日本人奴隷の輸出や銀と武器の取引が定着していた場合、今日のアフリカやラテンアメリカのような収奪的な政治や経済のスパイラルにとらわれていた可能性は充分にある。


また中国は急成長している国であるが、収奪的政治制度をとる国であり、かつてソ連も収奪的制度のもと冷戦時代に成長しそして崩壊したように、中国も同じ道筋を辿ることを危惧している。
なかなか興味深い。

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感想投稿日 : 2024年2月25日
本棚登録日 : 2024年2月9日

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