白魔 (光文社古典新訳文庫 Aマ 3-1)

  • 光文社 (2009年2月1日発売)
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本棚登録 : 225
感想 : 31
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完全にあっちの世界に行っちゃてるのがファンタジーで、狂気か神秘か、現実とのあやふやな境界を行ったり来たりするのが幻想小説あるいは怪奇小説である。これは現実なのか脳内で起きてる狂気なのか。現実って何だ?「白魔」は善悪論争から始まる。殺人者と虎のような野蛮な人間の違いは何か。悪の基準は社会の色眼鏡で見たものに過ぎない。悪意なく悪事を働くこともある。違いは悪意の有無?その具体例として借りた一冊のノート。それは一人の心優しい女性が白い妖魔たちに囲まれて育ち周囲に隠れて常識人には悪である向こうの国に行き来した手記だった。マッケンは神秘を否定する人物を登場させながらその存在を肯定する。「生活のかけら」は幸せな若い夫婦の日常の中で、神秘に触れる周囲の人たちを笑いながら、徐々に昔の記憶が蘇り妻を怯えさせながら向こうの世界に引き込まれてしまう男の話だ。そうなると神秘の描写は一貫しマッケンの筆は冴え渡る。ウェールズで生まれた幻想小説の巨匠マッケンの小説の登場人物はそこに幸福を見つけるが、読者を不安定な気分にさせる。マッケンが子供の頃に夢見たことへの郷愁と大人の常識目線による不信感を併せ持つから。つまり彼自身が妄想好きな常識人だったからだろう。ピーターパンや不思議の国のアリスと違い、マッケンの小説がファンタジーにならないのは、未知なるものへの不安を感じさせるからに他ならない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年11月16日
読了日 : 2020年11月16日
本棚登録日 : 2020年11月16日

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