灼熱の小早川さん (ガガガ文庫)

著者 :
  • 小学館 (2011年9月17日発売)
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本棚登録 : 595
感想 : 75
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 「クラス崩壊」は私も経験があって、よく理解できた。はやく静まって欲しいのに、呆然とした先生があきらめて出て行ったことがあった。私が所属するクラスはいつも一番やんちゃでごんたでダメなクラスだった。だから常に私もダメな人間のように思えていた。一番落書きが多く、一番私語が多いところに、中学から高校までずっといた気がする。一度も男性の先生にあたったことはなく、クラスのヤンキーのようなしっかりした女子が最後の気力で動かして、なんとか体裁を保つ、それで乗り切ってきた感がある。逆に、こんだけ崩壊してても、乗り切れるものなんだと思ったものだ。私は、クラスの出し物とか、できるだけ協力したのは覚えている。
 「クラスを手伝うのが恥ずかしい」。これに対して、この主人公二人以外はまったくブレないのがすごい。主人公とヒロインが逆に、ブレそうになったり、飲み込まれそうになったり、崖っぷちで頑張り続ける。そして、写真屋をなんとか開催したとき、せっかく準備してなしとげた株を、クラスの一切手伝わなかった連中に奪われてしまう。その空気もよくわかる。結局、怒りではどうにもならず、主人公のような、ある意味で悪人のような人間でないとクラスはまわらない、最も最初に大人になったのが主人公というかたちで、小早川さんがそれに続く。かなりいい小説だったけれど、ちょっとは「好きだ」とか告白してもよかったんじゃないか。いや、主人公はこういう男なのだ。これでいい。
 設定として、「優秀」な学校なのに、崩壊している、というのが良い。頭が良い分、中途半端に何もしないし、もっとも空気に流されやすいのだ。よく読むと、ものすごく大衆批判というか、鋭いところをついている。一番の大衆とは、こういう、無駄に優秀で自由ぶっこいてる奴。いじめるやつも、そういうやつ。P78【ひとりひとりは、軽い気持ちでやっている気がする。だがクラス全員分が集まってしまうと、それはまったく別種の殺傷力を宿す。誰かをマットで簀巻きにして、上にのしかかる。最初はやられるほうも笑っている。仲間同士の悪ふざけ。だがのしかかるほうがふたり、三人と増えていくと、簀巻きにされるほうの顔から笑顔が消える。五人のしかかると、カエルを潰したような悲鳴。十人でのしかかるのは、笑いが止まらないほど楽しい悪ふざけだろう。そうして気がつく頃には、日本人口がひとり減っている。いじめですか。いいえ、悪ふざけです。】
 それから、ブログで彼女の本心を覗けているという設定も良い。ものすごい正義の女子が、最後に精神が崩壊して、自撮りをブログにあげているところとか。しかも学校がばれている。主人公の「オーマイブッダ!」の反応が面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本小説
感想投稿日 : 2020年8月6日
読了日 : 2020年8月6日
本棚登録日 : 2020年8月6日

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