一神教以前の世界、神の血を引いているから「尊い」天皇。日本人の血縁信仰、そして怨霊に対する怖れ。鎮魂。自分たちの正統性の保証としての天皇……と、今までの天皇分析の総ざらいのような内容で、一時間くらいで読める。さほどスリリングな対談でもない。
あと、このままいくと間違いなく天皇家はなくなるので、旧宮家をどうするのか、いい加減、計画を練らないといけないのでは。
また、この天皇という「血」に対する信仰は、「差別」ではあるのだが、そこに「空気」がまざる。つまり、小泉の息子とか、天皇家とか、さすがええとこの息子さんはええよね、という血に対する素朴な褒め方は、何はともあれまずまず立派になっている奴にいうことばであって、そいつの実力がわるければ「あそこのええとこの息子さん、あかんわ」と、一気に見下されるので、ほんとうに「血」だけだろうかとも思う。また、血について、たとえば部落の人がいるとして、いまのごく普通の人権教育を受けてきた人が、「私部落だから」といわれて、「え! けがらわしい」となるだろうか。そんなことを酒の席でいったら、ぶん殴られるどころか、私なんかはそいつと絶交するか朝まで問いただし続ける。
私たちの行動とは「差別は絶対反対でバカバカしいが、天皇という機能が、高貴とか、ええとことか、賞とか、日本の代表としての晩餐会出席とか、そういうあこがれの世界を演出してくれているし、その天皇とは国民の総意であるので、しっかりとつながっている。すてきやん」という都合によってできているものなので、小谷野敦氏が「でも貴族ってなんかすてきじゃない? というおばさんにはいくら差別だと説こうが無理なのだ」というようなことを書いていたが、それはそうなのだ。
なのでこの「すてきやん」と思える世界の天皇がいることによって、政治が、経済が、これからやっていけるのか。やっていくのならば、どんなふうにうまいことやっていくのか。それを考えるための、ほんの入り口の部分がこの本だと思う。
- 感想投稿日 : 2013年8月25日
- 読了日 : 2013年8月25日
- 本棚登録日 : 2013年8月25日
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