夫婦善哉 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2000年9月29日発売)
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タイトルだけは知っていて未読だった「夫婦善哉」、たまたま古本屋で昭和25年発行平成元年四十刷の新潮文庫版を見つけて読んでみた(著者は 1947年没で現在は青空文庫でも読める)。夫婦の情愛を描く…と言えば月並だが、蓮葉で気風のいい蝶子と、蝶子と駆け落ちしたことを理由に勘当された実家への未練が抜けず、芸者遊びの癖も抜けない実に典型的なダメ男の日々の暮らしを当時の大阪の風俗を折り込みながら描く。商売をやっては失敗し、お金を溜めては(芸者遊びで)散財しの単調な繰り返しにも見えるが、何故か不思議な魅力があり、根強い人気を誇る作品というのはそういうものか。
故郷と京都吉田の不思議な邂逅を描く「木の都」、出来の悪い弟がしかしそれなりに行きていく「 六白金星」、青春時代に好いた文子を追いかけて東京まで行った挙句に手酷くフラれて帰ってきた、その後の希有な人生流転物語「アド・バルーン」、著者自らがナレーターとなり大阪の街や阿部定事件に小説のネタを探す「世相」、最愛の妻の死と競馬の興奮を重ねた「競馬」の 6篇を収めるが、出色はやはり表題作か。
戦中、戦後一貫して大阪の風俗を描き続けた著者は、それしか取り柄のないことに小説家としての限界を感じる(「世相」)が、しかし、世相を切り取り記録することも文学の重要な役割で、こうして今読み返してもいきいきとして魅力的だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年1月3日
読了日 : 2023年1月3日
本棚登録日 : 2023年1月3日

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