ナチス占領下のデンマークで書かれた本書を、戦争が始まった冬の日に読む。「『冬』の物語」は人びとの心の季節だろうか。長い冬を予感する。
まずあまりの話の巧さに驚く。そしてべらぼうに面白い……ゆったり描写される美しい風景のなか、人びとは自らの意思で運命を掴んで生きていく、あるいは死んでいく。物語を読む喜びに満ち足りる。
これらの素晴らしい物語は個人の尊厳について、また個人の尊厳は生まれ育った土地と分かちがたく結びついていることについて書かれている。つまり国土の蹂躙は人びとすべての蹂躪だ。
ナチスは彼らの大きな物語を強要したが、ディーネセンのいくつもの小さな物語は、冬のフィンランドの窓辺に必ず置かれるキャンドルのように、これから続く長い冬を照らしてくれる。
物語もさることながら、装丁の素晴らしさにも触れざるを得ない。
野田あいの装画は北欧のお伽話のよう、見返しや栞紐は表紙の空や湖の青、そして!花ぎれが!栞の青と金茶の2色で!!この茶がめちゃめちゃオシャレ!痺れる…
「とはいえ人は、この土地に千年以上にわたって住みつき、ここの土と気候によって形づくられ、またその思いによって土地に印をつけてきた。今や、個人としての人間の存在がどこで終わり、別の人間としての存在がどこで始まるのか、だれにもわからなくなっていた。」
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
literature (da)
- 感想投稿日 : 2022年6月15日
- 読了日 : 2022年2月27日
- 本棚登録日 : 2022年2月23日
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