塩狩峠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1973年5月29日発売)
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先日、北海道で暴風雪の中53歳の男性が亡くなられた。最愛の娘を守るよう10時間抱き続けて・・・父の必死の思いと引き換えに娘の命は救われた。

親が子を、また愛する人を守るため、自らが犠牲になったケースはある。しかし、見ず知らずの人の命を守るために死を覚悟できる人間はそう多くはないと思う。

この小説は長野政雄さんという実在の人物をモデルに描かれている。
1909年2月28日、塩狩峠に差し掛かった列車の最後尾の連結器が外れて客車が暴走しかけたところ、当時鉄道院(国鉄の前身)職員でありキリスト教徒であった長野政雄(ながの まさお)さんが列車に身を投げ、客車の下敷きとなり(自らの肉体をブレーキにして)乗客の命が救われたという事故が起こった。

実際の長野氏が「塩狩峠」の主人公 永野信夫のように結納に向かう際に事故にあったのかどうかは分からない。
信夫がキリスト教徒になる大きなきっかけとして描かれる親友吉川の妹 ふじ子。肺病と脊椎カリエスで長年臥せており、しかも長年結婚を待ってくれた婚約者の存在・・・このエピソードからも、ふじ子のモデルは三浦さん自身で間違いないだろう。

キリスト教徒がヤソと嫌われることがまだ多かった時代、母と祖母の間の宗教観をめぐる確執・・・最初はキリスト教に反感を覚えながらも不思議と信仰を深めていく信夫。

宗教的なカラーが濃すぎる、と敬遠するきらいもあるが長野氏の行いの尊さに当時の人々は胸を打たれただろう。
ひとりの人間の生涯を、後世にまで知らしめる。
そういう意味でこの小説の持つ意味は大きいと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人生論。
感想投稿日 : 2013年3月7日
読了日 : 2013年3月7日
本棚登録日 : 2013年3月7日

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