イスラーム国の衝撃 (文春新書 1013)

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  • 文藝春秋 (2015年1月20日発売)
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現時点でこれだけ整理するのは、大変だったと思う。
未知数が多いとはいえ、イスラム過激派の特徴が概観できた。

●組織:
現在のISももともとはアルカイーダの末裔であること。
アルカイーダ自体は弱体化し、直接・間接的に関係ある組織が乱立し、個人的に思想に共鳴するテロも発生している。また、それを推奨している。

1.正統アルカイーダ、2.アルカイーダ星雲(フランチャイズ、別ブランド含む)、3.勝手にアルカイーダ
に分類できる。
グローバルジハードの思想では共通していても、組織間のつながりはあったりなかったり。その中身はバラバラ。→とらえどころがない。

ISはアルカイーダ星雲の一つ。イラク戦争後の混乱地域で元イラク政府関係者を取り込み、土着化に成功。シリアの混乱にも乗じて勢力拡大。支配地域を有すること、カリフ制の復活等のイスラム教徒の心をくすぐる宣伝が巧みで新しい。
斬首はそのものを映像化しない。映画を見ている気分にさせる。→主張の一つ。

●目的及び方法:
7つの段階を提唱している。
2000-2003:目覚め
2003-2006:開眼
2007-2010:立ち上がり
2010-2013:復活と権力奪取と変革
2013-2016:国家の宣言
2016-2020:全面対決
2020   :最終勝利

結局、イスラム教等の根本にある最終審判の終末観により不安をあおり、異教徒を打ち破ったマホメットの事績と重ね合わせることで、高揚感や希望を与えるという手法のようだ。
イスラム教徒はコーランのみに従うのが原則であるため、「国の法律は仮のもの」という考え方に同調しやすい。また、それに準ずるハーディス(マホメットの言動録)にある事績は、時代背景により、例えば奴隷や戦争といった意味合いが現代と異なる場合でも、そのまま示されると否定しにくい。
過激派でありながら、イスラム正統派が真っ向から批判できない、あるいは取り込む「大義」を巧妙に掲げているところが、これまでとは違う。

●状況:
2011年に始まったアラブの春はただの不満勢力の結集にすぎなくて、民主主義の成熟にはつながらなかった。そのため、国の統治能力は弱まり、その空白地域(無法地帯)にアルカイーダをはじめとする過激派が息を吹き返せる空間が出現した、というのが現在の状況らしい。

しかし、これらの勢力はばらばらで、国家をつくるだけの統一思想や支持はなく、中東地域に安定した国家(民主的な国家が望ましいが)をつくることが、テロ対策にとって一番重要であることが理解できた。
無法地帯があるから、武器を持ったものが力をもって支配できる。住民の支持や自治のもとに「国」づくりされているわけではないことに留意する必要がある。しかし、スキマに対する適切な対処法を国際社会はまだ知らない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年10月8日
読了日 : 2015年10月8日
本棚登録日 : 2015年10月8日

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