単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社 (2013年9月5日発売)
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要点
1
脳の無意識の作用は強烈だ。ものごとの正しさや好き・嫌いを判断するとき、知らず知らずのうちにこれまでの経験や環境の影響を巻き込んでしまっている。しかも、私たちはそれに気づけない。
要点
2
自らの意志で自由に判断、行動しているつもりでも、実は行動しようと思う前に、脳がすでに動く準備を行っている。「自由」は行動よりも前に存在するのではなくて、行動の結果もたらされるものだ。
要点
3
「意志」や「意図」は、簡素なルールに従って創発されているだけなのではないか。

似たようなことは人間の世界でもよく起こる。たとえば他人への気遣い。ある人は気がつけるけど、ある人は気づけない。気がつける人にとっては「なぜこんなことにも気がつかないのだろう」といぶかしく思ってしまうが、気がつかない人はそもそも「それが存在しない」世界に生きているから、自分がどれほど気づいていないか、にすら気がつけないのだ。だから、隣にいる人と同じ物を見ても、それを同じように感知しているかどうかの保証は、まったくない。

正しさの基準は「慣れ」の問題に帰着し、正しさの信念は、結局記憶から生まれる。この世には絶対的な「正しい」・「間違い」の基準はなく、その環境により長く暮らし、その世界のルールにどれほど深く順応しているかどうかが、脳にとっては重要だ。

もう一歩踏み込めば、「正しい」というのは「それが自分にとって心地いいことかどうか」、つまり「それが好きかどうか」で変わってくる。好き、嫌いは環境にも大きく左右される。たとえば、何度も見かけた物は好きになりがちで、反復提示によって好みが操作されうることがすでに分かっている。また、意識にはっきりとのぼる理由がないままに、むしろ周りの状況を引き込みつつ、好きになったり嫌いになったりもする。たとえば、「あなたは人生に楽観的ですか?悲観的ですか?」という質問をすると、雨の日より晴れの日のほうが楽観的な答えが返ってくる傾向があるのだ。

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感想投稿日 : 2019年2月26日
読了日 : 2019年2月26日
本棚登録日 : 2019年2月26日

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