華人資本の政治経済学: 土着化とボーダレスの間で

著者 :
  • 東洋経済新報社 (1997年5月1日発売)
3.00
  • (0)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 3
感想 : 1
3

発展過程において変容していく東南アジアで、議論を避けることのできない華人経済に焦点を当てた書である。
華人の特徴として、東南アジアの元々いた存在ではなく、外部から二次的に入り込んだものであるということ、やがては土着化して、心は東南アジア化する一方で身は華人だということ、そしてそのような存在であるにもかかわらず、現地では華人の生活習慣を守っていることが挙げられる。

一般的に華人資本をイメージすると思い浮かぶような、金融システムそのものを支配している、といった事実は、データを見れば明らかになるが存在しない。にもかかわらず悪いイメージをもたれているのは、政治的不信感、経済的反発、社会的違和感が重なって、民族集団の中では今でも反華僑意識が流れているという。

華人資本が台頭できたのは、東南アジア政府の表と裏の使い分けによってである。要するに、表向きは国民のために反華人という立場をとるが、裏では華人の経済力やネットワークを利用して、国力の発展に努めたのである。これは、華人は選挙権を持っていなかったので、経済的に利用しても政治的領域に干渉されることがなかった、というのが大きい理由であろう。その発展度合いや、所有する企業の分野も国によって様々であるが、裏向きの性格はどの国家にも見られる減少である。ある意味ではWin-Winの存在であったといえるのではないか。

個人的には、土着化するが習慣は遵守するといった点に、華人経済の力強さを感じる。華人資本が発展した理由は、上記の政治的結託のほかに、零細から始まったにも関わらずネットワークや産業連関を駆使して発展したことが挙げられる。これは、土着化した国家内では現地語を話すが、同族が集まるときには中国語を使うといったように、彼らの、「習慣を遵守する」考えからきているように思える。例えば、アメリカの日本人街では完全に土着化が進み、二世三世になると日本語を話せない人もでてくるし、ネットワークも希薄である。一方で世界全体に見られるチャイナタウンの存在は、華人資本とは何か、といった問いに明確に答えているのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国際経済
感想投稿日 : 2011年6月4日
読了日 : 2011年6月4日
本棚登録日 : 2011年5月31日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする