水の柩 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2014年8月12日発売)
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本棚登録 : 89
感想 : 10
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古い旅館の息子である中学生の逸夫は何事においても普通の人でそれをもどかしく思っていた。小学生の頃に街に引っ越してきた日に逸夫の家の旅館に1泊だけした敦子の家は父親不在で貧しく,そのせいか学校で密かにいじめを受けている。逸夫の祖母は元々裕福な家のお嬢さんでそれが嫌で家を飛び出して,今の旅館に仲居として勤め,旅館の主人であった逸夫の祖父と結婚したということになっていた。ある日逸夫は,祖母と父が話しているのを立ち聞きしてしまい,祖母が長年隠していた秘密を知ってしまう。どうも孫に知られたことに気付いているようで以来祖母はすっかり気力が抜けたようになってしまった。敦子の方は中学生になっても相変わらずいじめが続いていて,遂には自殺を考えるようになる。

こういういじめが出てくる話はどうにも嫌だ。いじめは激しく卑劣な行為であり何の言い訳も成り立たない犯罪行為である。なかなか実態や証拠が掴めず,正式に裁かれないことも多いのだろうが,せめて天罰くらいは当たって欲しい。
加害者が卑劣な人間であるだけに,いじめからどう救うかというのは極めて難しい問題であり,フィクションである小説としても安易な解決策を提示するわけにも行かないのだろうが,結局,被害者はSOSのメッセージを発信しないといけないということなのだろう。それに誰が気がついてくれるかはわからないが,発信しなければ誰にも届かない。気付いた人が直接助けることはできなくても,状況を理解してくれている人がいるということは,支えにはなるかも知れない。
作中に登場する志野川というのは架空の設定なのだろうけど,ループ橋の正面にダムがある風景というと,秩父の滝沢ダムが思い浮かぶ。堤高132メートルの巨大なダムなので,飛び降りるとしたらとんでもないことになると思ったが,ダム湖側なのか。いずれにしてもダムで飛び込んだり物を投げ入れたりするのは色んな意味でやめて欲しいな。
逸夫の祖母が話した,ミノムシは本当は蓑の中にいる黒い芋虫なのに人は蓑を観てミノムシだと思う。人も同じことだ,というのが印象的だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月17日
読了日 : 2022年5月17日
本棚登録日 : 2022年5月17日

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