評価と贈与の経済学 (徳間ポケット)

  • 徳間書店 (2013年2月23日発売)
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”凱風館とFREEex、趣のまったく異なるコミュニティを主宰している、内田樹さんと岡田斗司夫さんの対談本。
タイトルは「経済学」だけど、コミュニティマネジメントの観点で面白く読めた。特に、これからの時代、拡大家族的コミュニティのビルダー(ファウンダー?)になろう、という提言に強く共感。

なかでも、強く印象に残ったのは以下のキーワード。

・努力したら最終的には報酬がある。ただし、どんな報酬がいつもらえるのかは分からない。
・拡大家族(拡張型家族)的コミュニティ = 相互扶助の互恵的な集団を作りたい
・良きパッサーたれ。「あ、あのとき受け取ったのは、パスだったんだ」
・「眠っている知性への敬意」をもって教える
・それぞれ相手に贈与して、反対給付義務を感じて、それを相殺しようと絶えず動き続ける
・急に近づいて「あなたに話す話法」
・「ほんとうに必要なものは金では買えない」時代の共同体実践

これからの時代、コミュニティの世話人として活動する人が肌感覚でもっていたい世界観が、二人の対談のなかで言語化されている感じ。折々で読みかえしたいコミュニティ関連本の一冊になった。

<読書メモ>
・いまは「流行りだから間違いない」「ランキング上位だから良いに違いない」という発想。
 (略)あるいは、いまこの人やこの会社がバッシングされているから、自分としては特になんとも思わないけど、みんなとおなじようにバッシングしておけば間違いないよね、って。ぼく「イワシ化」って呼んでるんですけども、社会がイワシ化してるんです。(p.24:岡田)

・自分の気持ちを大切にするために、いろんなところから肯定的な情報を集めてきたり、ソーシャルネットワーク上でイワシ化する(p.34)

★「努力したら、最終的には報酬がある」ということは言ってもいいと思う。でも、どんな報酬がいつもらえるのかは事前には予測できない。ある種の努力をしているうちに、思いもかけないところから思いもかけないかたちで「ごほうび」が来る。それはまさに「思いもかけないもの」であって、努力の量に相関するわけじゃない。(p.55;内田)
 ※努力と報酬の関係

・もし信託能力に自信があったら、「いまもらえなくても、オレが見込んだこいつならいつか返してくれるはず」と思えるはずじゃないですか。そうじゃないから、同時交換だったり早く対価が受け取れないと安心できないわけで。(p.58:岡田)
 ※キャッシュオンデリバリーは不信の証、になるほど。

・妄想してると、脳内にドーパミンが出てきて、それだけでけっこうハッピーになってるんじゃないかな。(略)ぼくたちは報酬をけっこう前払いで受け取ってるんだと思う。(p.61:内田)

・自分で「こんないいことしてるオレって、ほんとにいいやつだな」って思えれば、それだけで生命力って向上するんです。(p.62:内田)

・ちょっとずつ関わりが強くなるにつれて、ぼくにお金を払ってもらおうっていう発想なんです。(p.66:岡田)

・たとえ仕事をしなくても内田先生にお金を払いたいっていう人しか集まらないから、自分の値打ちがはっきりわかる。うちは社員が一年更新だから、ぼくがちゃんと仕事をしているかどうかで社員数が増減するんです。ぼくに値打ちがなくなると社員数が減っていく。しかも上限は3年と決めています。(p.74:岡田)
 ※FREEex(フリックス)の社員制度。おもしろい。月1万円、190人が払っている。

・とにかく、年長世代からの「がんばってね」っていうフレンドリーな贈与が社会的フェアネスを基礎づける、そういう時代に必ずなると思うんです。だって、どう考えても、それ以外にソリューションがないから。(p.87:内田)
 ※内田さんの「贈与経済」論。

★そういう小さなコミュニティをていねいに手作りしたいわけですよ。その五百人くらいの人たちで、お互いに顔の見える人間が集まって、若い人たちが活躍できるように、みんなでチャンスを提供する。お金がある人はお金を提供する。コネがある人はコネを紹介する。(略)そういう相互扶助の互恵的な集団を作りたいんです。(p.97-98:内田)
 ※拡張型家族!

・文系のヤクザ。一家を構える(p.98:岡田)
・責任感が発生した瞬間にこれは家族として成立している(p.99:岡田)

・あらゆることに優先するのは「集団が生き延びること」ですから。単独で「誰にも迷惑をかけない、かけられない」生き方を貫くより、集団的に生きて「迷惑をかけたり、かけられたり」するほうが生き延びる確率が圧倒的に高いんですから。(p.103:内田)

・仕事に就くのは能力じゃなくて完全に運だって考えて、運があるやつが拡張型家族を構成していく(p.107:岡田)

★ぼくは30万人とまでは思わないけれど、近いうちにそういう共同体実践をはじめようとしている人はもう3万人ぐらいいると思う。でも、3万人ではやっぱり足りない。これを30万人にして、100万人ぐらいまでもっていかないと、社会システムとしてはカバーしきれないから。(p.108:内田)

・根源に欲望があると思われたら生きづらくなるから、欲望を消してリアクションだけで生きていくことを選んでいる。欲望がないからリアクションしかすることがない。(p.126:岡田)
 ※ものがなしいけど、なんか分かる。

・師弟関係の一番いいところって(略)「この先生の最高の面を知っているのは私だけだ」という幸福な錯覚が敬意を生み出し、学びを起動させるという点にあるんです。(p.138:内田)

★国民のなかの数十人に1人が、キャラクターと言ってもいいしカリスマと言ってもいいし、先生って言ってもいい、そういうふうな人を立てていって、他の人間を食わせる状態にもっていこうっていう計画上にあるんですが(p.139:岡田)

・世の中にはゲマインシャフト(地縁や血縁で自然に形成される共同体)とゲゼルシャフト(特定の目的のために形成される共同体)と、もう一つなんとかシャフトがありそうですよね。(p.144:岡田)

・イワシ化だと持続的な共同体は作れないですね。でも、さっき話した拡張型家族のシステムだとやり方次第では「第三のシャフト」は可能だと思う。(p.145:内田)

・人のお世話をするというのは、かつて自分が贈与された贈り物を時間差を持ってお返しすることなんですから。反対給付義務の履行なんですよ。(p.148)

★ファンタジスタって、たぶんずっと「どこにどういうパスを出したら、ゲームが楽しくなるか」ということを考えていると思うんです。(p.150)

・贈与は「思ったもの勝ち」なんです。(p.160)

★肝心なのは、年上世代が若い人たちに敬意をもって接することだと思う。(略)そのうち「あ、あのとき受け取ったのは、パスだったんだ」ということが向こうにも実感されるようになる。(p.163)
 ※ここでは世代(年齢)で書かれているが、必ずしも年齢の上下とは限らない。ただ、「先駆者からのパスと敬意」というふうには言えるはず。

・すべての学生たちがその潜在可能性を開花させて、ハッピーに生きるためにどうすればいいか(p.171)

★もっとも上質な贈与というのは、こういうふうに本人も知らない、周囲の人も知らないのに、みんなを救うようなことをしてしまっている(p.179)
 ※堤防に開いた小さな穴を、誰知ることなくふさぐこと。

・移民社会で、文化が違えば、宗教も言語も違う、というなかでは可視的な基準以外に社会的な成功の度量衡ってほかにないからね。(p.208:内田)

・日本人の得意な、手触りの温かい、きめ細かなサービスで国際的な評価が得られるなら、その豊かな資源を活用しましょうよ。
 日本人が自分たちの持っている例外的な潜在能力に気がついて、国際社会のなかにどう自分たちを位置づけるか気づけば、日本はずいぶん元気になると思うけどね。(p.211:内田)

★それを教えるのは、いまの君にじゃなくて、君の眠っている知性に対してだから。(略)「教える側」が「教わる側」の潜在的な知力に対して敬意を持って接しなければ知性は開花しない。そういうものなんです。(p.218:内田)
 ※「眠っている知性への敬意」っていいな。

・人間の能力の90%は「外見からだけではわからない」ものなんです。(略)「なんでも食べられる」とか「どこでも寝られる」とか「誰とでも友達になれる」というのは、生き延びるためにきわめて重要な能力ですけれど、数値的には示せない。そもそも人と比べるものじゃない。(p.222:内田)

★夫婦は非対称な関係にあったほうがいいと思いますね。自分ができることが相手にはできず、相手が得意なことが自分は苦手というのがバランスいいんです。(略)
 お互いにいつも貸し借りがアンバランスで、妻と夫それぞれ相手に贈与して、反対給付義務を感じて、それを相殺しようと絶えず動き続けることで夫婦のバランスが保たれるんです。(p.231:内田)
 ※あ?、これ分かる!

・お母さんが子どもに「お父さんは偉いんですよ」って言うのは、「お父さんがこの家で最初の贈与を行った人である」というフィクションを語っているんですよ。誰かを視点にしないとゲームがはじまらないから。鬼ごっこの鬼みたいなものです。(p.232:内田)
 ※フィクション! 鬼ごっこの鬼!(笑)

・相手の幼児性を温かく許容することができる男。モテる男ってだいたいそうですよ。(p.237:内田)

・読者の知性に対するリスペクトがないと言葉は届きませんから。かなりむずかしい話かなって思っても、「わかるよね、必ず。君はわかるよね」って相手を信頼することが大事なんだと思う。(p.237:内田)

★たぶん「みんなに話す話法」っていうのは人によってそれほど技術レベルが変わらないので、急に近づいて「あなたに話す話法」を使えるかどうかに書き手の力量が表れる。(p.240:岡田)
 ※あー、なるほど。これは納得感が高い。コミュマネ的にも言えることかもしれないし、他の仕事でも言えることかな。

・音域が広い声なんです。そこからは男の声も女の声も子どもの声も老人の声も聞こえてくる。どの声を選ぶかは読者の自由に委ねられている。(p.241:内田)

★非力で、貧しく、なんの取り柄もなさそうな人たちでも、ひとつところに集まると、その出会いから思いがけない「ケミストリー」が起きて、想像を超えた素晴らしいパフォーマンスが達成されるという楽観的な共同体観です。
 ※ドリームランダースと鶏鳴狗盗。2つの拡大家族に共通するもの。

・「ほんとうに必要なもの──生き延びるために必要なもの──は金では買えない」(p.251:あとがき)
 ※金銭ですべて解決できるシンプルな時代ではなくなってきたってこと。だから、人柄なんだ、「いい人」なんだってこと。

<きっかけ>
 岡田斗司夫さんと内田樹さん、お二人の投げかけるメッセージが好きなので購入。2014/11/1 に読み始めたところ、コミュニティ論にも通じそうなテーマだったので、CMC読書会の課題図書に決定。”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: -
感想投稿日 : 2019年8月15日
読了日 : 2014年12月21日
本棚登録日 : 2019年8月15日

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