恋ふらむ鳥は

著者 :
  • 毎日新聞出版 (2022年7月4日発売)
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本棚登録 : 269
感想 : 27
5

飛鳥時代、白村江の大敗から壬申の乱を歌を交えつつ、額田王視点で描かれる。
この小説の特徴は、額田王が色の識別ができない設定であり、葛城(中大兄)、大海人の異父兄の漢皇子の存在。
額田王が色がわからないというのは、史実かどうかはわからないけれど、色のわからない額田に「茜さす〜」の歌を読むことができるのかとすぐに頭をよぎるが、読み進めるうち違和感なく、額田の人格や思考も、色がわからないが故、むしろ納得できる不思議さがあった。
漢皇子については不便強でこの本を読むまでは存在を知らなかった。額田、大海人、中大兄の話しだけでなく、漢皇子の存在が拗れた人間関係を描く上でわかりやすくなっていたように思う。
額田の大海人、中大兄に対する気持ちが恋愛感情ではないのも良かった。
鎌足が忠臣なのは明らかで、ただ不気味で冷ややかに感じるのは、なるほどと思う。思考はさすが藤原氏の祖と思わせる。晩年は額田を教育しているようにも伺える。

額田は大海人と別れ、宮人になるべく鎌足に負けじと必死で、この本の中の額田王は鎌足を意識し過ぎているようにも思えるけど、案外そういう女性像の方がしっくりきた。

額田王に視点を置くと、鎌足や讃良の印象が変わる。讃良は感情を露わにし、彼女の憎しみが、大海人を動かし壬申の乱への引き金になるのも永井路子さんの小説と重なりあい面白く読めた。
額田が詠んだ「熟田津 の歌」、額田が詠めなかった時に備えて中大兄が詠んだ歌を、彼が亡くなってから、彼の作った政が崩れ落ちるその時に聞かされるのは、儚すぎて涙が出た。
この小説に登場するのは、まだ幼い不比等。兄の死をどう思ったか、父と中大兄を見てどう感じていたのか。
ここにこの先の藤原摂関家の礎があると思うと、それも興味深い。

日本書紀、古事記を読んでみようかなぁ…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月7日
読了日 : 2023年7月7日
本棚登録日 : 2023年6月14日

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