文学とは何か――現代批評理論への招待(上) (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2014年8月20日発売)
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冒頭からぐいぐいと引き込まれる。古典の名にふさわし射程の深さ、鋭さをもっている。いい意味で期待(予想)を裏切られた。お手軽ではない。原語によるルビの振り方も含めて翻訳も良い。

批評理論をカタログ的に説明したものではない。批評理論間の関係を説明し、より根源的に文学とは何か問うていくのが本書の真骨頂だ。

冒頭の、いくつかの「はしがき」からして、言葉が生きている。上っ面でない。挑戦的だ。

序章の「文学とは何か?」ーーそれを誰も決められない、という議論は目から鱗だ。身も蓋もないのだが、ステレオタイプから、イデオロギーから、パラダイムから逃れるためには、まず、このような前提を共有できるかが重要だからだろう。

1章の「英文学批評の誕生」では、いまや自明の文学が歴史的危機の産物に過ぎない、イデオロギーにまみれたものと知った。

2章の「現象学、解釈学、受容理論」はこの分野の哲学概念と歴史的位置付けのおさらい。批評理論そのものの変遷について論じた箇所でもある。

3章は「構造主義と記号論」。恥ずかしながら、構造主義分析の実例を、初めて本書で見た。構造主義の概略と限界についてやっと分かった気がする。

・文学に関する定義が、現在のようなかたちをとりはじめたのは、実のところ「ロマン派の時代」以降である。「文学」という言葉のなかに現代的な意味が発生したのは十九世紀に入ってからだと言ってもよい。
・成功したイデオロギーが、みなそうであるように、宗教もまた、明晰な概念とか公式化された原理ではなく、イメージ・象徴・慣習・儀礼・神話といったものを通して機能した。
・文学は現実の矛盾から目を背けさせる側面があった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本<文学論>
感想投稿日 : 2018年5月31日
読了日 : 2018年6月5日
本棚登録日 : 2018年5月31日

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