主人公に仕えた老碑の回想を中心に、徐々に冒頭に提示された謎が紐解かれていく。場面によって語り部の視点を切り替えるなど、著者の作品には珍しい型式が見られるが、全体の構成ががっちり構築されている点は相変わらずで、ストーリーにぐいぐい引き込まれ、ラストも見事に収まっている。読後の満足感は充分で、ミステリ要素があるから読み返したくもなる筈。ヒロインは歌人だが、同時に大地主の総領娘でもある。そこが物語のキーになるが、舞台背景になっている、多分に封建的な戦前の地主と小作人の関係やしきたり、そして因習は、現代の我々には馴染みがない分、作中で取り交わされる短歌よりも、むしろ作品の根幹になっている。でなければ、登場人物たちの思考や行動は、小説の世界とはいえ、あまりに浮世離れしてる事になるだろう。日本にまだ江戸時代的なにおいが残っていた頃のお話。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文芸
- 感想投稿日 : 2016年6月29日
- 読了日 : 2016年6月28日
- 本棚登録日 : 2016年6月28日
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