グリコ森永事件に関心ある人必読の力作。事件は現場で起きている、という台詞を地で行く、証言を元にした場面再現はリアルそのもの。驚いたのは、すでに時効を迎えている未解決事件の総括や反省が、警察内で無かったように見受けられるところ。後悔や無念は、捜査関係者全員に共通するのに、なぜ「負けたのか」の教訓が伴わず、数十年後のTV局の企画で、当時の幹部でさえ知らなかった新事実まで"発見"されるのは残念。「失敗に向き合わなかった姿勢」こそ、未解決に終わった根本原因だったのだろうし、それがNHKの取材の意義となり、本書の価値でもある。敗因となったセクショナリズムありきの情報共有と連携の欠如、臨機応変な対応への縛りは、日本社会全般に見られる風潮だけに、単なる刑事モノに留まらない内容を含んでいる。犯人グループに迫った山場で、手出ししないよう命ぜられていた滋賀県警が、敵はおろか"味方"にも隠れて追尾する様は、悲哀と滑稽さが入り混じる、失策を象徴するシーン。また犯人一味を逃しながら「失敗したのは金を受け取れなかった犯人であって、警察ではない」と強弁する元幹部の主張(反論)を取り上げた章は、だから未解決になったのだという、取材班の強い反論があらわれているようだった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
経済・ビジネス
- 感想投稿日 : 2020年1月14日
- 読了日 : 2020年1月14日
- 本棚登録日 : 2020年1月14日
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