ロビンソン漂流記 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1951年6月4日発売)
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感想 : 32
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トゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』への下準備として有名なロビンソンクルーソ―の物語を初めて読む。数ある翻訳の中から手こずるのを覚悟で吉田健一訳を。ところがスラスラ読めた。まぁところどころ回りくどい文章がしっかり健一を主張しておりそこはもうニヤリ。ロビンソンの神の摂理への長ったらしい想念には辟易としたけれど、無人島での知恵を絞った孤軍奮闘ぶりは大いに楽しめた。それもこれも神のお導きということで、最後は財産まで蓄えお決まりのハッピーエンド。しかし腑に落ちない点がいくつもあったぞ。例えば文明社会に戻るや否やの資本への執着だとか(島時代にも兆候はあったが)。面白かったけどなんかモヤモヤしている。

物語の大部分を占める、年月で言えば28年にも及ぶあの無人島での自給自足の冒険生活はいったいなんなんだったのだろうね。最後の損得勘定を読んでいて、すごく違和感を覚えたのだけれど、、、

もう一言。
人種差別が公然と罷り通り何ら疑念を差し挟む気配すらないのは、1719年作という時代を鑑みれば百歩譲って仕方ないとしても、それにしてもロビンソンよ。女性を物資と同じように勘定して送り届けるとは何事よ。 考えるほど、どんどんモヤモヤが募ってきた。


追記。
世界文学全集『フライデーあるいは太平洋の冥界』池澤夏樹の月報によると、「デフォーのロビンソンは後にマックス・ウェーバーが〈プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神〉と名付けた思想によって島を経営する。あの話の中でのロビンソンとフライデーの関係はまず文明人と野蛮人であり、牧師と入信者であり、また資本家と労働者でもある」と記されている。モヤモヤも何もないな。当初からその目的で書かれた物語だったわけだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: イギリス文学
感想投稿日 : 2015年11月7日
読了日 : 2015年11月7日
本棚登録日 : 2015年11月7日

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