大人のいない国: 成熟社会の未熟なあなた (ピンポイント選書)

  • プレジデント社 (2008年10月1日発売)
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成熟というのは「生き延びる知恵」である。

しかし、これ程までにセーフティーネットが完備された豊かで安全な社会にあっては、もはや生き延びる知恵など全く必要としなくなった。
故に子供のままでも十分に生きていけるようになったので、無理に大人にならなくても良くなったのだと言う。

例えば…

① 直ぐに、責任逃れや犯人探しをしたがるクレーマーやモンスターな人々

② 「自己主張」だけで我を通す余り、誰にも相手にされなくなる「自分探し」の旅人

③ 全ては「金」が解決すると信じて止まない「金」全能主義者

そう言われてみれば、似たような性癖の子供が、昔は(そして多分、今でも…)クラスに一人は存在していたように思う。

しかし、大人と言うのは…

① 社会的に生きていく以上、各人がそのシステムの構成員であることを忘れてはならない。
先ずは「自分だけはその責任から逃れられている」という錯覚から目を覚ますべきだ。

② 「自立」というのは「相互依存」のシステムを上手に利用し、本来"不完全"である自分を補完しながら生きていくことである。
また、「個性」や「適正」というのは他者から認められて形成されるモノであって、自分で決定することは不可能だと気付くべきだ。

③ 「金」だけに限らず権力や名誉など、皆が同じ価値観を持つことは、思想統制された社会で生きていくのと同じ位に危険である。
確かに、或る集団にとって同じ価値観を持つことはその秩序を保つ上では非常に効率的な手段である。
しかし、集団を纏め上げることと集団を成熟させることは異なる事項である。
あらゆる価値観があり、その狭間で葛藤し自分で解決策を見つけてこそ子供は成長するのである。

なるほど…

①について
例えば先日起きたグループホームでの火災事故
マスコミは火災報知器の設置義務違反や夜間スタッフの不足など、設備の欠陥を責めてばかりいたが…
いざ自分自身の親が或る老人ホームに入居していて、その経営者から「今後に備えて夜間のスタッフを増やしたいので、来月からその費用を上乗せしたいのですが…」と打診された時に、私達は快く返事を出来るだろうか…
「もっと施設の方で企業努力をするべき!」なんて言いたくならないだろうか…
誰しもクレーマー的な所見を持ち合わせていると自省する必要がありそうだ。

②について
「おひとりさま」現象などは、「自立」が「孤立」に向う顕著な例だろう。
私も反省しているが、最近の私達は誰もが自分自身を可愛がり過ぎているような気がする。
今こそ見つめ直す時期なのかもしれない。

③について
例えばチョッと前までは、親戚や近所に生産的な活動をしていないけれども何となく憎めない「変なオジさん」が一人は居たモノだ。
ところが今では学校も親も「金を稼いて偉くなること」だけに全精力を注いでいる。
変なオジさんは、その地域で見守って行く愛すべき対象ではなく、「あんな大人にならないように」という反面教師としてしか存在価値は無くなってしまった。
もしも、そのオジさんが崇高な哲学を持っていたとしても、今の子供にはそんなモノは全く必要が無い(と、両親も学校も国もそう考えている)。
必要なのは、工業製品を一つでも多く輸出する能力であり、株価チャートを見抜く眼力であり、つまり何が何でも他よりも勝ることである。
最近露呈している社会の様々な問題は、そういった画一化された価値観を様々な方向に開放させるだけでもそれなりに解決の方向に向うと私は思っている。
少なくても「少子化担当大臣」をリーダーに対策を練り上げていく「学級委員会」的な発想よりは何ぼかマシなのではないだろうか!?

そして最後に内田氏は…

国民全員を斉一的に大人に仕立て上げるシステムを作るのではなく(それこそ子供の発想だから却下すべし)、現在も好調に機能しているように見えるこの「全国民の規格化・標準化」システムに適度な「ノイズ」を発生させ、局地的な「無秩序」を生み出す必要があると訴えている。

微力ながら、今後は私もノイズを出し続けて行きたいと思った次第である。
※私は社会適応能力がない分、その方面に関しては平均以上だと自負しておりマス…/(^^ゞ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会・ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年6月19日
読了日 : 2010年3月22日
本棚登録日 : 2017年6月19日

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