イギリスの歴史家、E.H.カーによる本書『歴史とは何か』は、岩波新書による邦訳が長らく歴史を学ぶ大学生がその基礎として専門過程の入り口で読まされる必読書の1冊である。私自身も、広義の現代史の研究室に所属していたことから、3回生くらいのタイミングで本書を課題図書として読んでいた。
本書の主張とは乱暴の要約すれば「客観的な歴史というのは存在せず、全ての歴史というのはそれを叙述した主体による主観性から免れない」というテーゼである。これは少しでも歴史学に触れた人であれば当然のものとして受け入れられるものである。一方で歴史を学び始めた学生にとってみれば、「歴史とは客観的なファクトの積み重ねである」という教科書的な思い込みがあるわけで、そのギャップを体感する、というのが本書の教育的な意義であろう。
本書はそんな名著の新訳であり、かつ非常に懇切丁寧な注釈や解説によって、文脈の理解が高まる手助けがされている。本書で顕著に感じたのは、冒頭の本書のテーゼが全く古びていないというのは当然のことながら、知的なユーモアを連発するE.H.カーの語り口の面白さであった。旧訳を読んだのはもう20年も前で記憶が薄れているとはいえ、こんなにユーモアに富んだ本だという記憶は一切ない。
そうした点も踏まえて、改めて本書が歴史に少しでも関心を持つ人にとってのファーストチョイスとして、長らく読まれるということを切に願いたい。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史
- 感想投稿日 : 2023年9月22日
- 読了日 : 2023年5月6日
- 本棚登録日 : 2023年5月2日
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