本書はこの数年で欧州を震撼させた4件のイスラム過激派テロの犯人の出生や周囲との交友関係を丁寧に辿り、何が彼らにテロを引き起こさせたのかを考察するノンフィクションである。
もう数年が経過しているが、フランスのシャルリー・エブド編集部襲撃事件、パリ同時多発テロ、ブリュッセル連続爆破テロ、そしてニースのトラック暴走テロのいずれも、まだ記憶に新しい。これらのテロの犯人について、我々は漠然と”イスラム教徒”であったから”テロを引き起こした”というストーリーを想起しがちである。しかし、実際の調査によると、このストーリーは間違っている。彼らは蓄積した”自らの生活・経済への不満”を、”イスラム過激派のリクルーターたちに教唆”され、テロを引き起こした、というのが実態である。
実際、この4件のテロのうち、複数件ではイスラム過激派、そしてISに属して、欧州の若者たちをリクルートする黒幕の姿がある。その手口は宗教カルトや左翼過激派のやり口に近いものでもある。
こうした実態のストーリーを踏まえ、テロリストをこれ以上生み出さないための政策とは何なのだろうか。それは決してISのように散り散りになっていくイスラム過激派の末端までをも追及する、という軍事作戦ではあり得ない。恐らく地道な取組ではあるものの、社会から切り離されて孤立した人間をなるべく作り出さないことに尽きるのかもしれない。
そうした省察も踏まえ、テロリズムの実態を知れる良書。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ノンフィクション
- 感想投稿日 : 2019年12月8日
- 読了日 : 2019年12月1日
- 本棚登録日 : 2019年11月24日
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