TR-808<ヤオヤ>を作った神々 ──菊本忠男との対話──電子音楽 in JAPAN外伝

著者 :
制作 : 田中雄二  菊本忠男 
  • DU BOOKS (2020年12月11日発売)
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感想 : 3
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シンセサイザー、リズムマシン、サンプラーなどの電子楽器の世界において、日本が世界に誇る電子楽器メーカー、ローランド。その最高傑作がデトロイト・テクノはハウス、ヒップホップを生み出したリズムマシン、TR-808である。本書はTR-808の開発にエンジニアとして関わり、ローランドの社長も務めた菊本忠男へのインタビュー集である。

TR-808の開発プロセスはもちろんのこと、TR-808と並ぶリズムマシンの名器TR-909やベースシンセサイザーTB-303、各種シンセサイザーの開発プロセスなどが語られており、電子楽器に興味があるユーザはもちろんのこと、日本のエレクトロニクス産業の歴史を語る上でも本書は面白い。

例えば、まだ半導体の性能が低い中で、少しでもリアルなサウンドを生み出すための様々な工夫の一つとして、TR-808のキックのサウンドの参考にしたLinnDrumの分析は非常に面白い。非常に音質がよかったLInnDrumのサウンドをローランドの技術者が分析すると、キックの残響音も含めて1秒ほど持続しているように聞こえるが、実際は150msec程度であったという。つまり、これは人間の耳が自然に残響音を補ってくれるという性質を利用することで、メモリの容量を圧縮できる、という気づきを得た瞬間であった。

また、ローランドの様々な業績の数々の中でも最も後世に与えたインパクトが大きいのは、異なるメーカーの電子楽器同士で演奏データなどを送受するための共通規格、MIDIである。こうした業界横断での標準規格はエレクトロニクスを始め、様々な産業での取り組みがあるが、その成功には様々な困難が伴う。そうした点で、制定された1981年から40年経った今でもMIDIが利用されているのは奇跡的という他ない。本書で語られる当時のメーカー間の交渉のエピソードなどを含めて、極めて貴重である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 音楽
感想投稿日 : 2021年3月14日
読了日 : 2021年3月14日
本棚登録日 : 2021年2月28日

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