イノベーションはなぜ途絶えたか ──科学立国日本の危機 (ちくま新書)

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  • 筑摩書房 (2016年12月10日発売)
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感想 : 3
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日本の科学分野の衰退について、現状とメカニズムを解説した本。著者本人がNTTの基礎研究所出身で、かつ起業経験もあるので説得力がある。日本でイノベーションが起きないのは文化や国民性によるものではない。制度的・構造的な要因によるものである。

日本の科学技術力が高かった時代は、大企業の研究所が大きな役割を果たしていた。博士課程を卒業した高学歴人材を受入れ、基礎研究を行ってきたのである。しかし90年代中頃、企業は基礎研究を止め、開発に専念するようになった。そのため研究者の活躍の場が無くなり、日本の科学分野の力が低下したのである。

実はこの大企業の研究所閉鎖というのは、日本に限った話ではない。この現象はアメリカで先に起こり、日本はそれに追随した形となる。ではアメリカはなぜ現在でも科学分野でトップを走るのか。それは研究者達を起業に向かわせる仕組みが整っており、優秀な人材が一攫千金を求めて研究を行い、ビジネスを立ち上げるからである。そのため大企業の研究所の閉鎖が起きても、研究者が活躍する場は存在していたのだ。対して日本は起業支援の仕組みが無い中で研究者が閉鎖されたため、研究を行うインセンティブが失われてしまったのである。

日本人は起業家精神が不足しているとよく言われるが、本書を読むと不足しているのは精神ではなく制度だと言えよう。そこでふと思ったのが、日本のマンガ分野である。漫画家を目指すというのは、研究者よりもはるかにハイリスクである。しかし日本では世界に類を見ないほど漫画家を目指す人が多い。これは日本人が挑戦的であることを示すのではなく、マンガ分野のエコシステムが充実しているからだと思われる。科学分野もエコシステムさえ整えば、また復権できるのではないかと思うが、どうだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年5月5日
読了日 : 2021年3月26日
本棚登録日 : 2021年3月26日

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