信長の原理

著者 :
  • KADOKAWA (2018年8月31日発売)
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『光秀の定理』に続くシリーズとも言える『信長の原理』。
少年時代に、蟻の動きからパレートの法則を見出した信長は、その法則に基づき、常備軍を鍛えあげて、天下取りを目指す。
世評、非情の権化の如く見做される信長だが、一方で臣下に対する情愛溢れる一面や、さらに、信玄や謙信と比べて己の才能のないことや気性の悪さを嘆く信長を、著者は描き出す。
幼少期の体験(蟻の動きから会得した)が彼の行動原理となっているが、しかしその法則に囚われるあまり、信長はやがてその身を亡ぼす。
そんな信長の末路を松永弾正が評する。
「信長よ、お前も所詮人ではないか。虫けらと同じだ。が、その虫けらがこの宇内の原理を根底から変えようとするなど、その原則を覆そうとする人事を常に試みるなど何を思い上がっている。いったい何様のつもりだ」と。
第一章から第三章までは、信長が主役で語られるが、第四章以下は、彼の部下たちの視点で交互に綴られ、信長の行動を立体的に描き出している。
すなわち、木下藤吉郎(秀吉)、丹羽長秀、佐久間信盛、柴田勝家、松永弾正。そして、より多く割かれるのが、やはり明智光秀の視点。
信長が、光秀を身近に呼び寄せ、家康の謀殺を相談する場面がある。これは史実だろうか。歴史にifは禁句だが、それが遂行されていたら、その後の日本はどうなっていただろう。
そして、本能寺の変。
光秀のその動機について、著者は信長の度重なる仕打ちに重ねて、次の言葉で個人としての誇りがずたずたに切り裂かれたことによると、著者は述べる。
「ぬしの今後も内蔵助の首も、すべてこのわしの匙加減ひとつであるぞ。その一事を忘れるなっ」
『光秀の定理』と合わせて読むと、より深く味わえるのではないか。
同時期に読んだ司馬遼太郎の『手掘り日本史』では、本能寺の変を、光秀ノイローゼ説としている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史小説
感想投稿日 : 2019年8月1日
読了日 : 2019年7月30日
本棚登録日 : 2019年8月1日

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