戯曲<サロメ>は、オスカー・ワイルドが書き下ろし、
オーブリー・ビアズリーが挿絵を描いて、後世に残した作品である。
21世紀。
画家 オーブリー・ビアズリーの研究をしている甲斐祐也は、ロンドンに赴任中。
彼のもとに、作家 オスカー・ワイルドの研究者、ジェーン・マクノイア
という人物から、会って話をしたいというメールが届く。
ジェーンは、甲斐に見せたいものがあると、バッグからある物を取り出す。
それは、舞台の床下から発見されたという ”未発表の<サロメ>“ だった。
そこに描かれていた挿し絵の首は、
戯曲<サロメ>に登場するヨハネの首ではなかった。
「これが、ほんとうの <サロメ> だとしたら、新発見、いえ、事件です」
この序章の後、真っ黒なページがあらわれ、時代は19世紀へと遡る。
この黒いページは、戯曲の 暗転 なのだろうか?
ここからは、ビアズリーの姉の目線で、
弟オーブリー・ビアズリーとワイルドの物語が展開される。
オーブリー・ビアズリーは、
ワイルドと 彼の戯曲<サロメ> に魂を奪われ、憑りつかれる。
そしてその執着が、誰も見たことがない絵を描き続ける原動力となるのだが…。
語り手である姉のメイベル・ビアズリーは、
全身全霊でワイルドから弟を守り抜こうとする。
しかし、彼女自身も異様で容赦のない執念を見せる。
最後から二つ目の暗転のあと、21世紀に戻る。
ジェーンが甲斐に ”未発表の<サロメ>“ が発見された舞台を案内するのだが、
発見された場所である舞台の床の上に立つジェーンは、
時空を超えた存在のように仄めかされる。
そして最後の暗転が明けると、舞台は1900年へと遡る。
ここで、「これが、ほんとうの <サロメ> だとしたら、新発見、いえ、事件です」
と語られた意味が暗示される。
破滅的、妖艶、そして耽美的な物語だった。
- 感想投稿日 : 2021年4月29日
- 読了日 : 2021年4月29日
- 本棚登録日 : 2021年4月29日
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