日和下駄 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社 (1999年10月8日発売)
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感想 : 8
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1913~14年に連載された東京散策記。つまり、関東大震災前の東京の光景が記録されている。

本書を通読して目を惹くのは、荷風の都市景観論である。たとえば…、

・東京に都市美があるとすれば、山の手の樹木と下町の水流である。
・駅や官庁といった近代建築は、古社寺の風致と歴史とを傷つけないように、慎重に注意すべきだった。
・渡し舟には近代生活では味わえない慰安を覚える

などなど。これらは、現代の都市景観論でも言われている(だけど、あんまり実現されない)ことだろう。徹底的な個人主義者と言われる荷風が、景観という公共性について踏み込んだ発言をしていることに、興味を惹かれる。

もっとも、川本三郎氏による解説は、荷風の回顧的な散策趣味が、市電の発達といった近代化によって初めて可能になったことを強調しており、面白い。荷風の近代化批判も近代化の所産なのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年9月20日
読了日 : 2022年9月19日
本棚登録日 : 2022年9月19日

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