江戸前エルフ(2) (マガジンエッジKC)

著者 :
  • 講談社 (2020年4月16日発売)
4.22
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本棚登録 : 73
感想 : 4
5

エルフの神の横顔と、富士の高嶺は変わらない。

さかのぼること四百年前、徳川家康に呼び出されたことで、江戸開府に前後する四百年に及ぶ歴史を見つめてきたひきこもりエルフ「エルダ(以下略)」。
彼女が座すのは慶応から数えること令和に至るまで四十回の改元を重ねた江戸改め東京の街「月島」でした。

相変わらずの自堕落っぷりをお世話役の巫女「小金井小糸」に突っ込まれつつも、地元の方々に愛され奉られ「変わらない」日常を送っているエルダさん。
しかし、本人は変わらずとも周囲は変わっていくもの。

生きている御祭神として小糸の成長を見守る常若のお姉さんっぷりを発揮しつつ、ふと寂しげな横顔を見せる彼女の出不精な足跡を一巻に引き続き追って参りましょう。
『江戸前エルフ』第二巻の幕開けです。あと、地味に元ネタありきで作っている章題が気になる方もいらっしゃるかもしれません。全部わかる方は誇っていいかもしれません。

時に、幕といえばこの漫画は基本的にエルダの自室で進行し、外出の機会があまりありません。
人物の掛け合いに終始するということもあってある意味「舞台劇」チックというか、お題に合わせた寸劇を組み合わせた序破急を基本パターンとしてひとつの話を作っていく感があります。
正面絵が目立つという意見も目にしましたが、その辺は画面づくりの要請あってなのかもしれません。

それはそれと、本編について。
まずは一巻の幕引きで顔を見せたエルダの旧友「ヨルデ(以下略)」の来訪からこの巻ははじまります。
いかにも負けん気の強そうな彼女は廣耳比売命(ヒロミミヒメノミコト)といい、エルダ同様に長命さゆえに関西で祀られている行ける御祭神エルフでした。

彼女がどんな子なのかといえば、第一印象を裏切っているかいないかは人に寄りけりでしょうか。
デフォルメ顔を彼女が冒頭から持って行ったせいで、エルダのそれが目立たなくなったと言えばわかりやすいかもしれません。流石は関西人ならぬ関西エルフ。

ツッコミ役のお付きの巫女「小日向向日葵」が無表情クール女子ということもあって、いろんな意味で対になっている感じをひしひしと感じます。根底のところでは似ているようでいて、やっぱり違う関東と関西の一組と一組の今後のゆくえについては続刊に期待しつつ、彼女たちは最初の一話で去っていきます。

それから不死身のくせして風邪を引いて看病してもらった話、流転し受け継がれていく衣服の話、今更だけど最新テクノロジーに高速で順応するファンタジー存在ってそれでいいのかって話などが続き――。 
最後に東京二十三区最高峰「スカイタワー」から富士の山を一望する話で〆と相成ります。

一巻はキャラ紹介と人となりを説明の要素を兼ねた回もありましたが、ここ二巻は先に挙げた「型」を作ってから安定感あふれるおなじみの雰囲気をはめていく、空間づくりがしっかり働いていることがうかがえますね。

そのように派手さこそありませんが安心な画面の下で、エルダはデフォルメ顔と物憂げな顔の切り替えで緩急をつけつつ、話の要所できっちり江戸時代の蘊蓄話を、彼女の口から文脈上違和感なく盛り込んでいます。
その辺も「下りもの」や「富士(不死)の山」といったお馴染みネタから、ちょっと突っ込んだマニアックなネタまで幅広いです。

一巻は現代のサブカルに絡めたネタが多めでしたが、今回は町民の習俗をさらりと紹介してくれていたのは話の幅を広げる上で地味にうれしいポイントかもしれません。
話は一区切りとなりましたが、続いていただける三巻でどう展開していくのか、それともこの二巻の延長線上でまったりとした日常を送っていくのか気になるようですがレビューを一旦閉じさせていただきます。

次なるは神無月に前後した秋のようですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Slice of life
感想投稿日 : 2020年5月4日
読了日 : 2020年5月3日
本棚登録日 : 2020年5月3日

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