「声優になることは、職業の選択ではなく生き方の選択である」
本書は洋画吹き替えのニコラス・ケイジ役やゲーム:メタルギアのスネーク役で有名な大塚明夫氏よる人生・仕事(声優)論です。
表紙の帯に「声優だけはやめておけ。」と一文がある通り、
大塚氏は声優業界を「ハイリスク・ローリターン」と表現しており、
職業として推奨できない理由が明確に記載されております。
自分の仕事とリンクするものとして面白かった箇所は、
「声優学校を経て声優になる」考え方に物申しているところです。
声優業界は世にでる作品(アニメ・洋画・ナレーション)が限られている以上、
そもそも仕事の枠自体が非常に狭い世界です。
その上、スポーツとは異なり年齢による衰えも少ないため、狭い席を新人・ベテラン関係なく争う構図になっております。その中で役を勝ち取るためには、抜きん出た「何か」が必要になります。
一方で学校側においては、大勢の生徒にスキルを叩き込む必要があるので、効率的で一貫したカリキュラムになります
そのため、結果として無個性で画一的な声優しか育たない弊害があります。
厳しい競争で役を掴むためには「はみでた何かを持つ」必要があるのですが、学校ではそういったものを削ぎ落としてしまうため、「無個性な声優」が増えていき、使い捨てにされていく…
要は、学校は「プロフェッショナル」そのものは育てることができないということです。
こういった状況に対し、
大塚氏は、演歌歌手や落語界のように、
「徒弟制度(師匠と弟子)」を導入しても面白いのではと記述しています。
これは弟子に対する技術の継承というより、
先達としての視点で助言する「メンター」的な役割と、
現場に連れ回して業界人に顔なじみになってもらうための「リクルーター」的な役割で書かれております。
私の会社でも徒弟制度なる仕組みがあり、成果指標の一つとなっておりますが、少し本来の意味や使い方と違いますね。ビジネスの短期的な数値目標に対して使われる用語ではないでしょう。
徒弟制度という言葉からも、
大塚氏は声優を「職業」として見ているのではなく、
人生をかけて極めていく「道」として捉えていることがわかります。
それが冒頭の「声優になることは生き方を選ぶこと」という言葉になるのだと思います。
表題は声優とついていますが、
プロとしての仕事哲学を教えてくれる、オススメの一冊です。
- 感想投稿日 : 2015年4月28日
- 読了日 : 2015年4月28日
- 本棚登録日 : 2015年4月28日
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