「差別」のしくみ (朝日選書1040)

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  • 朝日新聞出版 (2023年12月11日発売)
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「差別」をいかに定義するかというところから始め、アメリカの奴隷解放など差別と憲法の歴史、憲法24条と家制度、同性婚・夫婦別姓の問題とそれに関する訴訟、差別されない権利を基礎づける研究者による議論などを取り上げ、法的な観点から差別の構造を論じる。
自分も差別解消に関する条例制定の議論に関わったことがあり、差別の定義をはじめ差別に関する議論が非常に難しい(理論的にも政治的にも)ということは痛感しているが、本書は、錯綜する差別に関する議論を整理するきっかけとして非常に有益だと感じた。
ただ、著者の主張や紹介されている研究者の議論などには納得しがたいものも少なくなく、やはり差別の定義や差別の禁止を根拠づけるのはなかなか難しいなということを再認識もした。
例えば、著者は、差別においては同意なく被差別者の性別などの類型情報という個人情報を利用しているのでプライバシー侵害に当たると主張しているが、一見してわかるような類型情報を理由に差別することをプライバシー侵害として捉えるのは違和感があり、他にそのような説を聞いたこともなく、あまり腑に落ちなかった。また、本書の根幹である差別の定義についても、「人間の類型に向けられた否定的な価値観・感情とそれに基づく行為」という本書における定義は、具体的行為が「否定的な価値観・感情」に基づくとどう判断するのか、自然発生する「否定的な価値観・感情」自体はどうしようもないもので内心の自由の観点からも一概に否定できないのではないかなど疑問があり、十分に納得のいくものではなかった。個人的には、著者の指摘のとおり統計的差別への対応などに課題があることは承知しつつ、伝統的な理解である「合理的根拠のない(人間の類型に基づく)区別」という定義のほうがしっくりくる。
一方、差別をしたとされる人が往々にして「差別の意図はない」と言うことに対して、差別する人が主観的な「差別の意図」を持たないのは至極自然なことで、無自覚な差別こそが典型的な差別だと論じる部分や、同性婚訴訟等の判決が、国民の多数派が差別的価値観を持っているから、法制度が、それに迎合するための区別をしても正当だという趣旨の判決になっており、妥当ではないとする指摘など、本書の議論ははっと考えさせられる部分も多かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年4月13日
読了日 : 2024年3月24日
本棚登録日 : 2024年2月21日

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