日本人と象徴天皇 (新潮新書)

  • 新潮社 (2017年12月14日発売)
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本書は、平成27年4月に放送された2日本のNHKスペシャル(―日本人と象徴天皇―『第1回 〝戦後”はこうして誕生した』及び『第2回 平和を願い続けて』)をもとに、新たな資料や証言を加えて書き下ろしたものである。昭和、平成の2代の天皇の歩みの中でどのように「象徴天皇」が形作られてきたか、また、天皇と国民との関係が変化していったのかをたどっている。
本書を読んで、「象徴天皇」と一口にいっても、昭和天皇と平成の天皇で、大きくその在り方が変わっていったのだということがよくわかった。「象徴」となっても国家元首意識が抜けきれなかった昭和天皇に対して、平成の天皇は、国民との距離を近づけ、ある種の中立性をもった「象徴」としての立場を作り上げたのだといえる。本書で紹介されている昭和と平成の2代の天皇と深く接してきた渡邉允氏の次の言葉が非常に印象的だった。「昭和天皇と今の天皇の一番の違いは、普通の人に普通に話すことができるかどうかだと思います。昭和天皇はそういう意味では普通の人ではなかった。何か尋ねるときに、『どう?』とかおっしゃるけど、今の陛下は『いかがですか?』と尋ねます。それは表面的な言葉だけでなく、その奥にある対人関係、極端に言えば国民との関係が違うのです。昭和天皇は若い頃から人と距離があったから、それがなかなか抜けなかったのでしょう。だから、お二人の一番違うところといえば、そういうところではないかと思いますね」
また、残念ながら病没された元NHKプロデューサーの林新氏が「あとがき」で、以前は「天皇」を否定していたが、日本の近現代史を見つめてきて「日本に天皇はむしろ必要なのではないか」という結論を出さざるを得なくなったと述べていることが心に残った。「天皇の役割は、合理的なものの間を豊かに埋め尽くしていく非合理性にこそあるのではないか」という林氏の指摘は、現代の天皇の本質を突いているように感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年6月11日
読了日 : 2019年4月14日
本棚登録日 : 2019年6月11日

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