生活保護:知られざる恐怖の現場 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (2013年7月10日発売)
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本棚登録 : 272
感想 : 19
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本書では、あくまで受給者側から見た生活保護行政の問題点と改革の方向性が指摘されている。
ここで紹介されているような、「生活保護をできる限り受けさせない」という方向での生活保護行政の「暴走」の実態は確かにあるのだろう。そういう側面を告発するという意味で本書の意義はあると思う。また。多大な監視コストをかけるより、社会保障の充実により「貧困化のサイクル」を防いだ方が社会全体として経済的という問題意識からの、普遍主義的なナショナルミニマムの構築という今後の方向性の提案も一理あるとは思う。
しかし、本書は受給者の立場に肩を入れ過ぎなように感じる。違法行政の実態があるにしても、なぜそのようなことになってしまうのかについて行政側やケースワーカーの視点がほとんどないので、事実の一面しか捉えられていない気がする。また、不正受給が全体のごく一部にしか過ぎないという本書の説明と同様に、違法な生活保護行政も全体の中ではごく一部なのではないかという疑問もぬぐえない。
そして、本書では善良な弱者としてしか生活保護受給(申請)者が描かれていないが、本当にそうなのかという疑問もある。本書で取り上げられている舞鶴市の生活保護申請者のケースにしても、そのような困窮のさなかにきちんと交際していない男性の子を妊娠するというのは社会常識的に理解しがたいものがある。これに限らず、生活保護申請に至るまでの生活態度等に問題があるケースは少なくないと思われる。生活保護申請を受け付けないといった対応がよくないのはもちろんだが、単に生活保護を受けられたらそれでよいのではなく、どうしてそういう状態になってしまったのかを受給者に認識させ、その根本を改善するという視点も必要ではないかと思う。
最後に、普遍主義的な社会保障を実現するにあたって、著者が財政制約をまったく考慮していないことも気になった。生活保護に限らず、社会保障費が年々増大していくなかで、単に社会保障の充実を図っていくというのは持続可能性の点で無理があると思う。生活保護充実ための財源をどうするのか、他の社会保障制度との関係をどうするのかといった点をもう少し深めてほしかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月24日
読了日 : 2013年8月25日
本棚登録日 : 2013年8月30日

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