(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2013年6月28日発売)
4.01
  • (132)
  • (152)
  • (73)
  • (15)
  • (8)
本棚登録 : 1374
感想 : 173
4

 本書は、著者の『ルポ貧困大国アメリカ』シリーズの完結編にあたる。今回は、食の世界や公共サービスに自由主義経済の考えが入ることで起こる様々な問題を取り上げている。

 食に関する問題では、1986年のレーガン政権の頃から政府によって行われた「規制緩和」により食品の安全基準が崩壊し、さらに大企業による「株主至上主義」の下で行われた大規模農業によって、アメリカの家族経営農家は追い込まれていった。

 さらに大企業は遺伝子操作をしたGM作物や農薬を使用したより効率的な大規模農業を行い、さらに知的財産権を利用し、有機農業を駆逐していく姿を描いている。また、近年登場した狂牛病や鳥インフルエンザなどの感染病は、遺伝子操作された作物や農薬により通常の免疫を超えた新しい病気として紹介されている。

 公共サービスの問題では、政府や州は「小さな政府」に向けて公共サービスを民営化していき、結果として市場原理を持ち込み、豊かな人と貧しい人の格差が広がり、貧しい人は通常のサービスが受けられなくなった。
 そして市場原理が広がる背景には、規制緩和があり、その政策案を出す州議会議員も大企業に買収されているという。こうした事実を多くのアメリカ人が知らないことについても、マスコミがこうした大企業に握られているため報道されないからとしている。
 以上のようなアメリカの現状が、同じように「小さな政府」へと向かう日本の将来的な青写真として警鐘をならすことに筆者の意図がある。
 ルポされている人物の多くが、いわゆる被害者として意識しているため、発言内容も感情的なものが多いように思われるが、そうしたことを差し引いても迫り来る危機に目を向けるためには、アメリカの現状を知る必要があるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会
感想投稿日 : 2014年6月13日
読了日 : 2014年6月13日
本棚登録日 : 2014年6月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする