リッキー・エリオットはケンブリッジを卒業し幼馴染のアグネスと結婚して教師になるが、因習に縛られ精神が硬直した妻や周囲の人間との軋轢に疲弊していく。しかし伯母の家で出会った粗野な青年スティーヴンと自らの出生の秘密を知り、生き方を変える決意をする。
漂う空気は紛れもないフォースターのものなのに、びっくりするほど読みづらい。脈絡のない会話、凡そ血が通っているとも言い難い登場人物たち。これに観念論が加わってお手上げ。ただし印象的な美しい場面は数多くあり、それらを頼りに読み進める。
小野寺健によれば本書の主題は「リアリティの追求と倫理的価値観からの解放」だという。言い換えれば「真の生を生きる」ということであり、作中で触れられることはないがはっきりと同性愛を示している。ケンブリッジ時代の、リッキーとアンセルが花冠をかぶり牧草地で戯れる場面。スティーヴンとリッキーが紙に火をともし川に浮かべる場面。とらえがたく官能的な美しさが心に残る。
フォースターの自伝的要素が強く、本人も思い入れを持っていたようだ。『モーリス』にしろ本作にしろ、主人公が魂の解放を勝ちとりながらも現実世界に居場所を得ないのは、作家が自らの本質的テーマのひとつである同性愛を描くことの限界を感じていたからではないか。『モーリス』のように正面から取り扱わずとも、本作の方向性をさらに追求して独自の境地を開拓してほしかったなあとついついない物ねだりをしてしまう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
イギリス - 小説
- 感想投稿日 : 2014年11月23日
- 読了日 : 2014年11月23日
- 本棚登録日 : 2014年11月23日
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