本書は非常に分かりやすい構成を取っている。具体的には「格差の現状の提示(データで示す)→その要因→格差社会の日本社会への影響→格差社会の進行によって起こる問題点→では、どうすべきか?(処方箋)」というように、順序立てて分かりやすく論が進められているため非常に理解しやすい。
この本から分かることは、この本が出版された2006年当時においては格差社会は確かに進行しているということだ。ただ著者は格差社会の問題点を指摘しているものの、根拠としては特に目新しいものはないように思え(もっとも、この本を読んでいるのが2016年とかなり時間が経って格差が当たり前になってしまっているからかもしれないが)、その点についてはやや残念。もっともこういった問題は誠実な語り口が求められるがゆえのことなのかもしれないが、もう少し新たな視点が書かれていればもっと面白かったかなと思う。また、たとえば「p161 北欧のような高福祉・高負担社会の実現も工夫によっては可能」と書かれているが、その根拠も曖昧だろう。北欧国家の体制の問題点にも言及されていない(ページ数の都合もあるだろうが)。
様々な意見を言うのは簡単だが、ただ意見を言っているだけという人も多いと思われる。たとえば本書は次のように指摘している。「p203 日本社会では、一般的に、次のような認識が広く存在しています。日本は税金が高く、社会保険料も高い。にもかかわらず、国民への社会保障の還元は非常に少ないという認識です。いま見たように、社会保障の還元が最低レベルであることは、統計と合致しています。しかし先述したように、税と社会保障の負担率は、実際には、国際的に見ても低いのです」。では果たして、どれほどの人がこのようなデータによる前提を踏まえて議論をしようとしているだろうか?そうした日本社会の現状(とは言え2006年当時のものだが)を知るという意味では本書は役に立つものと考えられる。
- 感想投稿日 : 2016年1月3日
- 読了日 : 2016年1月3日
- 本棚登録日 : 2012年12月31日
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