近衛文麿: 教養主義的ポピュリストの悲劇 (岩波現代文庫 学術 218)

著者 :
  • 岩波書店 (2009年5月15日発売)
3.82
  • (6)
  • (14)
  • (5)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 109
感想 : 13
5

五摂家出身の「貴族」である近衛はモダン性、復古性を併せ持ったスターであった。親英米であり、当時の流行である社会主義に通じ、ゴルフ好きであった。一方で、天皇への忠誠心を抱き、古美術を愛し、アジアの連帯を訴えた。「長身」「美丈夫」は女性の人気を集め、相撲の見物は庶民に親近感を持たせ、教養主義はインテリの人気を集めた。そのような「近衛」像はメディアを通して拡散し、首相就任前から国民的人気を作り出していく。「華冑界の新人」として各層に熱狂的に迎えられ、その人気を背景に政治家として活動した。
一方でその熱狂的人気は近衛の政治活動を束縛するようになる。「貴族」に過ぎない近衛は国民の支持をなくしては活躍できない。結局、国民の強硬世論に流され、自身もまた「国民政府を対手とせず」声明などで火に油を注いでいく。彼の教養主義は活かされなかったのである。
ここで著者は、教養主義がポピュリズムに陥った点に注目する。すなわち、特に近衛のような基盤を持たない貴族・知識人政治家は軍部に対抗する上ではポピュリズムに頼らざるを得なかった。教養主義はその時意味をなさなかったのである。
それは今でも変わらない、というより民主主義の課題であろう。世論なくして政治家は生まれない。世論ばかりに従っていては政治にならない。世論と違うことをする時に、過度に単純化せずに有権者の注目を集めながら丁寧に説明できるか。池上彰的な政治家が求められるように思われる。
現政権も一時期それに近いことをしていた気もするが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年6月21日
読了日 : 2015年6月21日
本棚登録日 : 2015年6月21日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする